【フランス映画祭】パレス・ダウン

ガラス越しに見ていたアジアの風景

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(C)Joe D Souza

パレス・ダウンのパレスとは、ムンバイのタージマハル・ホテルのこと。2008年11月26日、パレスと呼ばれる高級ホテルがテロリストに襲撃された。これはその事件に巻き込まれた18歳のフランス人少女ルイーズの体験を元に作られた作品である。たまたま、両親を夕食に出送りだし、彼女が一人部屋に残ったその晩、事件は起きる。ホテルのどこかで爆発音のような音がし、間もなく彼女は、ホテルがテロリストに襲撃されたことを知る。しかし出来ることといえば、暗い部屋で、一人身を隠すことだけ、頼りになるのは、携帯電話から聴こえてくる両親の声のみという状況で、彼女は自分の身を守らなければならなくなる。

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(C)Emma Blunden

事件は彼女の視点と、外にいる両親の視点からのみ進んでいく。特にルイーズの場合は、部屋の外で起きる人々の叫び声、銃声の音、犯人が廊下を走り抜けていく音、ドアの下から漏れ出る光と影以外に、状況を掴む手段が無い。携帯電話の向こうから聴こえてくる両親の言葉だけが、唯一信じることができるものである。「バスルームに隠れているように」彼女は、その言葉を信じるしかない。事件の初期の段階、まだテロが起きていることを知らないルイーズが部屋を出て、廊下の様子を伺うシーンがあるのだが、いつもは従業員が行き交う廊下が、まるで彼女以外に誰もいなくなったかのような静寂に包まれている。そのシーンに象徴されるように、この作品が怖いのは、事件の真っただ中にいるというのに、一体何が起きているのか状況を把握できないこと、常に自分以外に誰もいないことにある。観客にとっても、それは同じことで、途中両親が街中のテレビで流されているニュースを見るシーンが唯一、客観的な状況を知らせるものとなっている。そのことが余計に臨場感を生みだしていて、テロに遭遇するということは、こういうことかとさえ思わされる。

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