(ライターブログ)イタリア映画祭2016を振り返る
素晴らしきボッカッチョ ★★★★★
監督 パオロ&ヴィットリオ・ダヴィアーニ
出演 パオラ・コルテッレージ、ミケーレ・リオンディーノ、キム・ロッシ・スチュアート、リッカルド・スカマルチョ、ジャスミン・トリンカ他
今年鑑賞したラインナップの中で最もウットリと愉悦に浸れた作品。ボッカッチョの名作「デカメロン」の中から愛についての5話が、美しく格調高い映像と豪華キャストで綴られる。ペストが流行したフィレンツェから、若い男女10名が郊外の邸宅に逃れ、死の恐怖を紛らわすために毎日一人ずつ話を披露していく。アイロニーやブラックユーモアに満ち、示唆に富んだ寓話に惹き付けられるが、一番好きなのは鷹を唯一の友達とする貧しき騎士の話。センチメンタルだけど信念があって、愛する人のためにすべてを捧げてしまう不器用な騎士。「えぇーっ」て心の中で叫んでしまうほど皮肉な状況に見舞われるけど、最後に女性の心を掴むのはこういうタイプの男性かもしれない。タヴィアーニ兄弟監督の前作「塀の中のジュリアス・シーザー」は半分以上寝てしまったけど、本作はストライクど真ん中。
大きな災難や悲劇に見舞われてもイタリア人にはそれを乗り越える知恵とセンスがある、というメッセージにイタリア映画の魅力と底力を思い知る。
あなたたちのために ★★★☆☆
監督 ジュゼッペ・M・ガウディーノ
主演 ヴァレリア・ゴリーノ
ファンタジックな映像と詩的な音楽で主人公アンナの再生を語る。ヴァレリア・ゴリーノが演じるアンナは3人の子供たちの母親で、念願だったテレビ局の仕事を得る。そこで人気俳優の信頼を得て、イイ感じの関係を築いていくのだが・・・。
舞台はナポリ、母となった女性たちに求められる役割は重く、彼女も我が身を犠牲にして家族のために働いている。アンナのような境遇の母親は世界中にいくらでもいるだろうし、普遍的なテーマかもしれない。が、本作は少女時代のアンナに刷り込まれた価値観、保守的な家族観が根強いナポリで女性が背負わされる十字架、に着目しながらアンナの心の変化を見つめていく。彼女の心にある光と闇を直接的な言語だけでなく、記号やモチーフを用いて表現した試みが一興。
俺たちとジュリア ★★★★☆
監督 エドアルド・レオ
出演 ルカ・アルジェンテーロ、エドアルド・レオ他
イタリアのゴールデン・グローブ賞で最優秀コメディ賞を受賞。いわゆる負け組の中年男3人が田舎の農家を共同で購入し、ホテルにリノベーションして再起を図るというストーリー。そんなに珍しい話じゃないよな・・・なんて思っていると、途中に登場して“みかじめ料”を要求するカモッラたち(マフィアの組織)の描き方にこれまでにない印象を受ける。マフィアをこんなにコケにしてこの監督の命は大丈夫だろうか、と心配になるほど。もしかしたら最優秀コメディ賞はその命知らずな勇気に捧げられたのか? いや、知らないだけでよくあるものなのかしら。弱者たち(中年男たちとガーナからの移民と若い妊婦)が力を合わせ知恵を絞ったところでマフィアと闘うなんて無謀だし夢物語に思えるけど、その構図にSFチックなものを感じ血が騒ぐ。彼らのやけくそ的な言動に大笑いしながら応援してみていたけど、イタリア人も同じような気持ちで見ていたのだろうか。本国イタリア人の感想を聞いてみたい。
最後に一言、どうしても観れなかった「私と彼女」が劇場公開されますように!
イタリア映画祭2016
公式サイト: http://www.asahi.com/italia/2016/