ちはやふる 上の句/下の句
「10代で出会っていたら」と思っていた作品が実写映画化された。末次由紀のコミックスで、現在31巻まで刊行されている「ちはやふる」。映画は2016年3月19日に「上の句」、4月29日に「下の句」が公開された。映画では、かるたに情熱を燃やす高校1年生の綾瀬千早が競技かるた部を創設し仲間と共に全国大会に臨むまでが描かれており、物語としては初期のころにあたる。原作の意図をしっかりと汲みながらも製作陣の熱い思いがほとばしり、千早と同世代だけではなく青春時代から遠ざかってしまった人の心をもゆり動かす作品となった。
※以下レビューは、物語の結末に触れています
「ちはやふる」は在原業平の詠んだ「ちはやぶる 神代も聞かず 竜田川 からくなゐに 水くくるとは」に由来。「神」にかかる枕詞で、勢いのよいさまを表す「ちはやぶる」は、主人公の名前(ちはや)につながっており、彼女がタイトルロールである。しかしながら、上の句での主役は千早(広瀬すず)ではなく、千早の幼なじみである部長の真島太一(野村周平)であり、部員である机くんこと駒野勉(森永悠希)であった。「感じ」(=耳)が良い千早や、永世名人を祖父に持ち鍛え上げられてきた、千早と太一の幼なじみ綿谷新(真剣佑)ではなく、特異な才能もなく、環境的に恵まれて育ったわけでもない彼らの目線で描かれているのである。
机くんは頭の良さを買われてかるた部に誘われるが、あくまで初心者。とりたてて和歌に詳しいわけでもなく、身体能力が優れているわけでもない。努力を重ねてもいまだ一勝もできず、試合では数合わせのように扱われてしまう。嫌気が差すのも当然と言えば当然だ。かるたをやり続ける理由が分からなくなる。一方で太一は、千早への恋愛感情が原動力のひとつになっている。綿谷新へのライバル心もある。しかし彼もまた突きつけられる、頑張っても報われない、才能がないという思い。「青春全部かけたって、俺はあいつ(新)に勝てない」。秀才でスポーツ万能、何でもそつなくこなせて女子にもモテもてるが、本当に欲しいものは手に入らない……。