スポットライト 世紀のスクープ

映画と。ライターによるクロスレビューです。

【作品紹介】

Photo by Kerry Hayes (C) 2015 SPOTLIGHT FILM, LLCボストン・グローブ紙の記者たちが、巨大権力の大罪を暴いた衝撃の実話!
2002年1月、アメリカ東部の新聞「ボストン・グローブ」の一面に全米を震撼させる記事が掲載された。地元ボストンの数十人もの神父による児童への性的虐待を、カトリック教会が組織ぐるみで隠蔽してきた衝撃のスキャンダル。1,000人以上が被害を受けたとされるその許されざる罪は、なぜ長年にわたって黙殺されてきたのか。この世界中を驚かせた”世紀のスクープ”の内幕を取材に当たった新聞記者の目線で克明に描き、アカデミー賞6部門(作品賞/監督賞/助演男優賞/助演女優賞/脚本賞/編集賞)にノミネートされるなど、名実ともに全米で絶賛を博す社会派ドラマ、それが『スポットライト 世紀のスクープ』である。(公式サイトより)

【クロスレビュー】

外山香織/戦いはこれから度:★★★★★

神父たちによる子供たちへの性的虐待の事実。劇中、神父の名前は色々出てくるのだが、彼らの実際の姿はほぼ登場しない。それは敵が彼ら個人ではないことを意味しているのだろうか。再三登場する「システム」という言葉……教会組織に打撃を与えなければ、問題は解決しないということだ。一方、取材が進む中で過去にも情報はグローブ社に届いた形跡があり、追求する機会があったことも明らかになる。報道側にも、ここまで引っ張ってしまった責任があったということを示し、だからこそ記者の戦いは記事を出して終わりではなくそこからが始まりなのだという光の当て方でラストを迎える。キリスト教圏の社会にとって、教会を糾弾することの重みは計り知れない。「これを記事にしたら誰が責任を取る?」「これを記事にしなかった時の責任は?」のやり取りに、世界で注目を浴びているパナマ文書のことを思い出さずにはいられなかった。今こそ、日本にこそ、この精神が求められているのではないだろうか。

鈴木こより/ペンは剣より強し!度:★★★★★

メインの登場人物が新聞記者というだけあって、セリフに痺れる映画だった。とくに「(我々の仕事は)暗闇で間違った道を歩いていることに気づかせる光(スポットライト)である」という局長の言葉には”悪事を暴いて社会的な制裁を行う”という傲慢さがなく、心震えた。そして、その真摯な精神は部下である記者たちだけでなく、この映画製作にも引き継がれているように思う。
ここで描かれている大スクープは途轍もないことで、実際に世界を揺るがすものであったが、本作はヒロイズムに陥ることなくその軌跡を振り返る。そこには被害者への配慮もあるのだろう。感情的な抑制は効いているものの、テンポの良い描写に引き込まれる。衝撃的な事実に直面し、緊迫した場面で交わされる言葉の使い方やそのニュアンスを堪能した。

藤澤貞彦/記者魂の本気度:★★★★★

映画の舞台ボストンというのは元々、ピューリタンが住みついた街。宗教的には敬虔で保守的な面がある。それだけに、この事件は地元の人たちにとっては衝撃的であったことであろう。教会が地域の中心的役割を担っており、その批判はタブーなのである。当初、無意識のうちに地元の記者たちが、放ってしまったのも無理はない。本作は、そうしたボストンならではの特色がよく描かれている。(レッドソックスファンであることがボストニアンの証であることも含めて)それだけに、記者たちの活躍には、余計に溜飲が下がる。さらにこの作品が見事なのは、組織とそこで働く人々の描写がとても丁寧なところにある。取締役、編集局長、編集長とその部下、それぞれが自分の役割をきちんと果たしてこそのスクープなのである。(ある意味、会社勤めの人は必見!) 決して各人の動きは派手ではない。地道に神父の年鑑を調べたり、断られても何度でも取材に押しかけたり、そうしたことの積み重ねで記事が作られていくのがとても興味深い。記者魂とは何か。そこにこそ、この映画の価値がある。

富田優子/弱者への寄り添い度:★★★★★

カトリック教会の神父による児童への性的虐待というショッキングな真実を追う新聞記者たち。彼らには傲慢さもなく自信過剰に陥ることなく、目的を見失わずに地道な取材を続ける。紅一点のサーシャの服装もシンプルなブラウスにパンツスタイル、そして歩きやすいローヒールの靴。妙に勘違いした女性記者ではなく、仕事重視のファッションにも好感が持てる。
記者たちは弱者と視点を合わせることを徹底している。権力におもねるのはたやすいが、そこから疎外されたものに寄り添うのは難しい。被害者への取材はオブラートに包んだ証言ではなく、ストレートな言葉を聞き出そうとする。それは被害者にとって辛い時間だろう。だが、その後に彼らに寄り添うことを忘れない。小さなテーブルを挟んで涙する被害者と時間を共有する。本作と同じく賞レースを賑わせた『ルーム』でも被害女性はテレビ取材を受けるが、こちらは心無い質問ばかりのうえ、取材後は放置というその落差も非常に興味深かった。マッカーシー監督は『扉をたたく人』でもそうだったように、弱者への優しい目配せを忘れない。その点が多くの人の支持を得た大きな要因であるように感じる。


Photo by Kerry Hayes (C) 2015 SPOTLIGHT FILM, LLC
4月15日(金) TOHOシネマズ 日劇他 全国順次ロードショー

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