ルーム
【作品解説】
閉じこめられた[部屋]で暮らす、ママとジャック。体操をして、TVを見て、ケーキを焼いて、楽しい時間が過ぎていく。しかし、この部屋が、ふたりの世界の全てだった。ジャックが5歳になった時、母は[部屋]しか知らない息子に本当の世界を見せることを決意する。息もできないサスペンスフルな脱出劇、思わず漏れる嗚咽─だが、そこから予測できる顛末は、全て見事に裏切られる。[部屋]を出てからのさらにその先に、この映画の類まれなる真価と輝きが待ち受けているのだ。監督は『FRANK‐フランク‐』のレニー・アブラハムソン。母を演じたブリー・ラーソンは、本作でゴールデン・グローブ賞主演女優賞、アカデミー賞主演女優賞を受賞、一気にスターダムを駆け上がった。
【クロスレビュー】
※下記レビューは、物語の結末に触れています
外山香織/深い喪失の果てにある希望度:★★★★☆
「部屋」から脱出するまでの1時間と、その後の1時間はまるで違うトーンだ。敵が目の前から消えて、母(ブリー・ラーソン)は不在だった7年間の重みを痛感する。バラバラになっていた家族。自分の父は、娘と誘拐犯との間に生まれた子どもを見ることすらできない。容赦のないマスコミ。この7年がなければ歩んでいたはずの「普通の」人生にはもう戻れない、その喪失感。しかし一方で、息子ジャックの目からすれば「部屋」の外はnew worldでもある。その新鮮かつ繊細な目線が、この物語の救いでもあるのだ。ジャックにとって、母と過ごした「部屋」は決して地獄ではなく出発点であったということ。同じ景色を見て、親子はまた歩き出していく。怪力の源であった髪の毛をデリラに切られてサムソンは力を失ったが、ジャックは母を救う。生命の持つしなやかさを、信じたくなる。
鈴木こより/子どもが持つピュアな力に引き込まれる度:★★★★★
狭い納屋に7年も閉じ込められていた母とそこで産まれ育った5才の息子。小さな天窓が1つしかないこの部屋で、愛らしい息子の笑顔に救われる。母親ひとりだけならもっと早く脱出できたのかもしれない。でもこの息子の存在がなければ、この母親は生きられなかっただろう。この母子は何とか脱出に成功するのだが、部屋を出た後も多くの問題に直面することになる。母親は17歳の時に男に誘拐され、息子はその誘拐犯との間にできた子供。だから彼女の父親はその子(孫)の存在を受け入れることができない。さらにマスコミの報道や安易なモラルも母親を追い込んでいく。納屋の中では生きる希望だった息子の存在が、元の世界に戻った母親をじわじわと苦しめる。被害者を支えるために周りの人間にできることは、ただ受け止めることだけなのかもしれない。奪われた時間は戻らない。けれど新しい環境に馴染んで健気に前を向きはじめた息子の姿が、ふたたび母親に生きる勇気を与えていくだろう。
富田優子/二人の母親の物語度:★★★☆☆
7年監禁されていた部屋からヒロインと子供が脱出するくだりはハラハラ・ドキドキし、成功を確認すると安堵したものだが、本作のキモは“その後”にあるだろう。ヒロインにとって奪われた7年は簡単に埋めることはできず、無神経なマスコミの取材や周囲からの好奇の目によって追い詰められていく。それはヒロインの両親も同様だ。17歳の娘が突然消え、7年後に涙の再会を果たしたのは良いが、その間に5歳の孫もできていたという衝撃の事実。その心痛、察するに余りある。父親は孫を直視できないのだが、果たしてそれを誰が責められようか。だがやはり母は強い。彼女は複雑な思いながらもその事実を呑みこみ、傷ついた娘と孫に根気強く寄り添おうとする。「ばあば、大好き」という一言が彼女に向けられたときのシーンが、心に沁みるハイライトだ。アカデミー賞を射止めたブリーと子役ジェイコブの名演は言わずもがなだが、ヒロインの母親役ジョアン・アレンの受けとめる演技も印象的。二人の母親の物語といっても良いかもしれない。
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4月8日(金) TOHOシネマズ 新宿、TOHOシネマズシャンテ他 全国順次ロードショー
2016年4月19日
ルーム/君がいた世界
ルームRoom/監督:レニー・アブラハムソン/2015年/アイルランド・カナダ 奪われた社会性と、存在しなかった社会 TOHOシネマズ日劇、J-18で鑑賞。 あらすじ:閉じ込められた部屋から逃げます。 7年間、納屋に閉じ込められていたジョイ(ブリー・ラーソン)と、5歳の息子ジャック(ジェイコブ・トレンブレイ)。ある日、ジョイは納屋をぬけ出す方法を見つける。 ※少しネタバレしています。 特に注意書きはしていません。おすすめポイント部屋を出てからが本番です。