【柳下美恵のピアノdeシネマ2016】 第1回『密書』ゲスト石田泰子さん

~字幕翻訳とサイレント映画伴奏の意外な共通点~

2月19日渋谷アップリンクにて、「柳下美恵のピアノdeシネマ2016」の1回目の公演が行われました。上映作品は『密書』。上映の後に行われた柳下美恵さんと字幕翻訳家石田泰子さんによるトークショーの模様をお送りします。字幕翻訳と伴奏の共通点とはなど、興味深いお話が満載です。

【作品紹介】

『密書』(84分/デンマーク/1914年)

監督・主演:ベンヤミン・クリステンセン
密書カルト映画『魔女』のクリステンセン監督の原点であり、最初の監督作品。主演もクリステンセン自身が務めている。国を愛する海軍中尉ヴァン・ハウエンは、戦争が始まり、息子と妻を置いて軍艦に乗る。一方、彼の妻は、近所のスピネッリ伯爵に執拗に言い寄られていた。だが、実は伯爵は敵方のスパイで、情報を盗む目的を持っていたのだった。大事な軍事情報を盗んだ伯爵は、それが敵方に届かず発覚した時、ハウエン中尉に疑いがかかるよう工作していたため、無実の中尉が捕らえられてしまう。裁判になり、妻と息子は必死に彼を助けようとするのだが、真犯人のスピネッリ伯爵は行方不明になっていた…

【トークショー】

≪石田泰子さんプロフィール≫
字幕翻訳家。1984年より映画の字幕翻訳に携わる。現在劇場公開映画を中心に字幕翻訳を制作している。主な作品に『トレインスポッティング』『マンマ・ミーア!』『華氏911』『ミッドナイト・イン・パリ』『レ・ミゼラブル』『ザ・ウォーク』など。(下写真は対談の様子:右が石田さん、左に柳下さん)


字幕翻訳家になった理由

対談柳下美恵さん(以下柳下) 「今日の映画をご覧になった感想を、お聞きしたいのですが」

石田泰子さん(以下石田) 「いやぁー、面白かったです。柳下さんのピアノに導かれまして」

柳下 「今日はここに来る前に一回弾いてきたんで、体力が持つかなぁって感じだったんですけれども(笑)」

石田 「85分間いっときも指を休めることなく、弾き続けているわけですよね。強弱はあれど」

柳下 「いつも即興が中心なのですけれども、実は今日は楽譜も使っているんですよ。デンマーク国歌を色々な調に転調しとけば、何かに使えるかなと思ったので。ただ、転調した時に間違えちゃうといけないので、一応楽譜を持ってきました。デンマーク国歌というのは2種類あって、これは王室のほうの国歌みたいですね。民衆のほうの国歌もあるらしいんですよ」

石田 「艦隊のところとか、最初のシーンとかそうですよね」

柳下 「そうそう、国旗で犬をくるんで男の子が怒られているところとか」

石田 「聴いてすぐに、あっこれは国歌かなって思いましたよ」

柳下 「なんか国歌っぽいっていうのはわかりますよね」

柳下 「先程ちょっと打ち合わせをしていた時に、映画についてのお話が出て、すごく映画がお好きなんだなぁと思ったのですけれども、元々映画がお好きで、字幕翻訳家になろうとされたのですか」

石田 「そうですね。でも順番でいうと、先に英語が好きだったんですね。先生に恵まれていたということもあるのでしょうけれども、中学で英語を習った時から好きになって、その頃からもう、英語を使う仕事に就きたいなと思っていました。でも漠然としたものだったので、何がいいのかっていうことは、わからなかったのですけれどもね」

柳下さん3柳下 「それで映画の道に入っていらしたのは、どういう流れだったのですか」

石田 「それはやっぱり映画を観だしてからですね。中学の時には友達同士で観に行ったりしましたね」

柳下 「どんなのをご覧になっていたんですか」

石田 「『チキ・チキ・バンバン』とか『ビートルズがやって来るヤァ!ヤァ!ヤァ!』とか」

柳下 「ミュージカルというか、音楽映画とかですね」

石田 「学生時代には、東京中に名画座と呼ばれる映画館があったんですね。2本立て400円で古今東西の映画が掛かっている。もう、沢山あったんですよ」

柳下 「今、名画座っていうと、割りと日本映画が多いのですけれども、その頃は結構洋画をやっているところがあったんですか」

石田 「邦・洋両方ともありましたね。よく監督の特集なんかもやっていましたし。今は、飯田橋のギンレイホールとか、早稲田松竹とか残っていますけれども。あと下高井戸シネマとか」

柳下 「邦画も洋画も両方ともご覧になったんですね」

石田 「その頃はね。両方とも浴びるように観ていました」

柳下 「そこから字幕に行くわけですよね」

石田 「そうですね。ただ、今では信じられないのですが、まだ字幕翻訳家という職業がこの世の中にあるっていうことが、あまり知られていない時代だったんですね。清水俊二さんとか高瀬鎮夫さんとか、このお二方が字幕翻訳の第一人者だったんです。でも映画自体に没頭していたせいか、最初に名前が出てきていたにも関らず、その方と字幕翻訳という仕事との関係が結びつかないまま年月が経ってしまったんです。で、ある時、池袋の文芸坐で映画を観ている最中に、あっ、そうかぁっ、字幕翻訳家というのが職業としてあるんだ!で、それを職業としているのが、最初に出てくる清水さんだったり高瀬さんだったんだって、頭の中で電球がピカピカッて点いたんです」

柳下 「この翻訳好きだなとか、そういうのはあったんですか」

石田 「好き嫌いとか、それよりも映画そのものに没頭していましたからね」

柳下 「じゃ、字幕に使われているのは、割りと入りやすい言葉だったということですよね」

石田 「そういうわけではないと思いますよ。昔のほうが今よりも難しい言葉や表現が使われていたと思うけど、読めない漢字とかね。でもあまり関係なかったんです」

柳下 「字幕は見ているけれど、すべての字幕を見ているというよりは、雰囲気とかを見ながらということですよね」

石田 「映画のほうですよね。やっぱり」

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