『女が眠る時』ウェイン・ワン監督インタビュー

主人公の小説家役の西島秀俊さんは、「キャラクターを私の分身のようなものとして演じようとしていた」

ウェイン・ワン監督

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「実に時代のニーズに応えていない」「知的映画」だと主演のビートたけしが賞賛を込めて完成披露会見で語っていたが、ウェイン・ワン監督の新作『女が眠る時』は、観る者の感性とリテラシーが大いに試され、刺激される作品だ。
海辺のリゾートホテルに滞在している小説家・健二(西島秀俊)が、若く美しい女・美樹(忽那汐里)と親子ほど年の離れた男性・佐原(ビートたけし)のカップルに興味をひかれ、彼らの行動をのぞき見ているうちに常軌を逸した行動をとっていく物語。夢と現実の境界が溶けていくような、不思議な世界が展開する。
ワン監督といえば、米国で暮らす中国系移民の世代間の違いや絆を描いた『ジョイ・ラック・クラブ』(93)、ベルリン国際映画祭で銀熊賞を受賞した『スモーク』(95)など、背景は様々だがしっとりしたタッチで人と人の結びつきを描いてきた名匠。今回初めての日本映画、そしてミステリーという自身初のテーマに挑戦し、これまでの同監督の作品にはなかった手法を見せている。
プロモーションのため来日したワン監督に、このチャレンジングな作品にこめた思いをうかがった。


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ー正直、本作を拝見して、結末を未だに消化しきれていないのですが、それが却って不思議な心地よさを感じさせる映画になっていると思いました。

それはむしろ嬉しい感想ですね。単純に、クリアに答えを提示したくはないから。(ビート)たけしさんのアイディアから生まれたセリフで、「脳というのは、起きる寸前にさまざまな物語を作り上げる。特に冷たい金属を喉や顔に当てられるとね」というのが劇中に登場しますが、その通りだと思うのです。この作品自体が冷たい金属の役割を果たして、観客にいろいろなことを想像してもらいたいと思いますから。

ー初めてのミステリーへの挑戦ですね。

この映画のミステリーの側面は、日本の80年代の推理小説や、推理小説を原案にした映画からインスピレーションを受けています。この作品は日本のスタッフ、キャストとともに作り上げました。日本の文化には、何かこう曖昧なところに面白さがありますよね。リリー・フランキーさんが演じた役(謎のカップルの過去を知る男)はその良い例だと思います。いろいろ関係のない話をしていると思っていると、最後には元のところに戻ってくるという、“円”のようなキャラクター。リリーさんご本人にもそういうところがありますが。私はそんな日本的な資質が好きで、そういうものを通してこの映画を作りました。

ー複雑な物語ですが、撮影は順撮りで?

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出来る限り、という感じでしたね。キャラクターの感情面で重要なポイントになるシーンは順番どおり撮るようにしましたが、実際難しいところもありますから。
この物語は、少なくとも私にはとてもシンプルなテーマに思えるんですよ。2組のカップルと、それぞれの喪失の物語です。小説家の健二が、倦怠期の自分の結婚生活と向き合わなければならない時に、初老の男性と若い女性のカップルに強い興味を抱いてしまう。どこが現実で、どこがそうじゃないのかが不明瞭な物語ではあるけれど、いずれにせよ、その経験が健二にヒット作を書かせることになるわけです。

ー脚本には、各シーンに夢か現実かを明記されていたのですか?

脚本には「ここは健二の想像」などと書いていたのですが、美樹が健二と妻の部屋に初めて入ってくるシーンの撮影の時、夢か現実かを曖昧にした方が面白いのでは?と思って変更しました。その撮影の後から、どちらか分からない撮り方をするように持って行くようにしました。

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ー前半と後半でがらりと映画の雰囲気が変わりますね。登場人物たちのクローズアップが多くなり、怖さが増していきます。

最初はノーマルなトーンで進んで、健二の妄想や謎のカップルとの関わりが深くなる中盤から、この映画は変わると思っています。それを視覚的にも表現しました。私が面白いと思っているのは、美樹を佐原が見て、その佐原を健二がのぞき見して、後半に入ると監視カメラが健二を見ていることが明かされる。そして、その画を映している映画という媒体そのものを一体誰が見ているのか…という問いかけにもなっているところです。

ー健二は頻繁にメガネをかけたり外したりしますよね。いっそコンタクトにしてもいいんじゃない?とくだらないことを考えてしまったのですが(笑)、何かこだわりがあったのでしょうか?

特に意味はないのですが、もともとメガネをかけるという設定は、ヒデ(西島さん)が私が普段かけているメガネと似たメガネを持っているというところから生まれたんです。ヒデは健二というキャラクターを私(監督)の分身のようなものとして演じようとしていて、実際、私にも何かをしっかり見たい時だけメガネをかける癖があるからなんですよ。リラックスしてるときはかけないんです。

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