【TNLF】『むかし、むかし』柳下美恵さん、吉田稔美さんトークショー

衣裳がわかると、映画はもっと面白くなってくる

なぜドライヤーはお伽噺を作ったのか

対談1柳下 「では、そろそろドライヤーの話をちょっとしますね。これはとっても珍しい映画だって言われていますよね」

司会 「この作品が作られた背景をちょっと補足しますと…。当時、スウェーデン映画界が盛り上がっていたのに対して、デンマーク映画界は斜陽していたという状況があります。お金を出したソフツ・マッセンというという人は、元々は大きな劇場を持った興行主だったのですけれども、自分の国の映画がスウェーデン映画に負けているということで、何とかしたいと思ったのですね。そこで、ひとつデンマークの愛国映画を作ってくれないかと、ドライヤーに企画を持ち込みます。ドライヤー自身もデンマークで映画を撮れずに、ドイツで撮ったり、スウェーデンで撮ったりして苦労していたので、故国でデンマークらしい映画を撮ろうということで、それに共鳴します。そんな経緯で作られているので、この作品はデンマーク愛に溢れています。豪華な衣装とかも、ドイツで作れば安く上がったのですが、敢えて自分の国で全部作り、ものすごいお金を賭けたそうなのですよ」

柳下さん2柳下 「だからドライヤーにしては珍しい作品になったのですね。それでも、やっぱり中世が舞台の基軸となっているので、その点では、『裁かるゝジャンヌ』とか『奇跡』など、ドライヤーの作品に一貫して流れている、祈りとかそういうものに通じているのかなって感じがしますね」

司会 「ドライヤーのお伽話っていうことで、とっても珍しいということが先に立って気が付かないのですけれども、考えてみると、中世が入りこんでいるというところに、柳下さんは、やっぱりドライヤーらしいということをすごく感じられたんですね」

柳下 「もしかしたら吉田さんに衣裳のこととかを聞かなければ、時代背景を中世という風に捉えられなかったもしれないのです。けれども、やっぱり中世っていうことだと、そこにドライヤー作品に通底する祈りの部分を、お伽話であっても感じられるのですね」

司会 「ただ、ドライヤーっていうと、宗教的で重苦しいイメージがあったんですけれども、この映画を見ると、ちょっとまた面白いなぁと思いましたね」

柳下 「そうですね。従者がちょっと笑いを取っていますよね。王様の俳優はすごく有名な舞台俳優だったみたいですね」

司会 「そうですね。当時のデンマークの一番エライ俳優さんで、彼はこの映画を撮ったあとすぐに亡くなるんですけれども、彼の動いている姿がこうやってフィルムに残ったこと自体が、奇跡だと言われているのですよ。当時こうした舞台俳優さんが映画に出るということは、あまりなかったことですから。それで当時彼は、映画っていうのはすごい芸術だった、これは演劇とはまったく違う素晴らしい芸術だって、おっしゃっていたそうです」

柳下 「途中ですごく惨めになった王子が森の精霊に会うっていうところは、とても中世的な感じがしますよね」

司会「あれは俳優さんじゃなくて、一般の方をドライヤーが見つけたんだそうですね。本当にあんな人がどこにいたんだろうって感じがしますよね」

柳下 「ドライヤーってそういうのがうまいですよね」

司会 「本当に精霊みたいなかんじがしますものね」

吉田さん2
吉田 「このお話自体は、下敷きになっているものが実はあるんですよね」

司会 「例えばアンデルセンの中にも『豚飼い王子』というのがあるのですけれども、ただ映画の原作者とされている人は、アンデルセンをパクッたわけではないと言っています。ただ、民話とか、昔話っていうのは色々なものが組み合わさって、色々なバリエーションがあるってことがよくありますね」

吉田 「そうですね。アンデルセン自身、創作作家ではありますけれども、グリム童話と同じ話と思われるものを、アレンジして書いているのもあります。具体的には、グリム童話に 『つぐみひげの王様』っていうのがあります。高慢なお姫様が、求婚者がどんどんやってくるのを、意地悪な渾名をつけて追い返してしまうというものなのですが、これなどは『豚飼い王子』によく似ていますね」

柳下 「映画の中で、手で回すと音を奏でる楽器のようなもの、名前がよくわからなくて、私たちはガラガラって呼んでいたんですけれども、そんなのが出てきますよね。その『豚飼い王子』の中に、お湯を入れるとメロディーを奏でる壺というのが書いてあったので、それで、そこは効果音にしなくてメロディーにしたんです」

司会 「どんな音が鳴っているのか私たちにはわからないのですけれども、お姫様が芸術は振興しなければならないっていうことを言っているので、確かに、何かメロディーを奏でていたのかなって、思いましたね」

吉田 「侍女たちも踊っていましたしね」

柳下 「だからあれに合わせて踊ったのかなって、思いましたね」

司会 「この映画、語りどころが多くて話は尽きないのですけれども、何で王子様がろくろ回しているのだろうとか、突っ込みどころもいっぱいあるのですが(笑)そろそろお時間になりました」

柳下 「まあお伽話ですから(笑)」

登壇者プロフィール

吉田稔美
イラストレーター・絵本作家・古楽愛好家。日本ルネサンス音楽普及協会・日本イタリア古楽協会 会員。著書に、西洋舞踊研究家・(故)原田宿命との共著「ルネサンス踊り絵本」(架空社)、オリジナル絵本「つづきのねこ」(講談社)など。手掛けた絵本のイラストは多数。オリジナル・ピープショー(のぞきからくり)の研究制作、商品化など幅広く活躍。

柳下美恵
サイレント映画ピアニスト。1995年に朝日新聞社主催映画誕生100年記念上映会でデビュー。国内外の映画祭で活躍。即興演奏を得意とし、全てのジャンルを弾きこなす。600本を超す映画に伴奏をつけている。自らが作曲したBlu-ray『裁かるゝジャンヌ』(英Eureka Masters of Cinema※1)を収録曲をもとにイギリスで伴奏。ドライヤーの故郷、デンマークの映画協会巡回上映※2のDCPに伴奏音楽が使用されるなど、その活躍は広がりを見せている。
※1 https://www.eurekavideo.co.uk/moc/007.htm
※2 http://www.dfi.dk/nyheder/filmupdate/2015/november/cinematek-i-hele-landet.aspx

※2月~6月の第3金曜日「柳下美恵のピアノdeシネマ」がUPLINKにて開催されます

第1回は2月19日(金) 19:30開場 20:00開演『密書』ゲスト・石田泰子さん(字幕翻訳)
詳細⇒UPLINK 柳下美恵のピアノdeシネマ http://www.uplink.co.jp/event/2016/42664
なお、「映画と。」でも、トークショーの模様をお伝えする予定です。お楽しみに。


▼トーキョーノーザンライツフェスティバル 2016▼
Key Visual
「北欧映画の一週間」
会期: 2016年2月6日(土)~2月12日(金) ※音楽イベントは別途開催
会場: ユーロスペース他
主催: トーキョーノーザンライツフェスティバル実行委員会
公式サイト: http://www.tnlf.jp/index.html
(他にもイベントが盛り沢山。詳しくはこちらで)

1 2

トラックバック URL(管理者の承認後に表示します)