キャロル

映画と。ライターによるクロスレビューです。

【作品解説】

in_main1パトリシア・ハイスミス原作、知られざるベストセラーの初映画化。カンヌを熱狂させたトッド・ヘインズ監督最高傑作!『ドラゴン・タトゥーの女』で、いきなりアカデミー主演女優賞にノミネートされた若手女優ルーニー・マーラと、アカデミー賞の常連で『ブルー・ジャスミン』でついにアカデミー主演女優賞を射止めた大女優ケイト・ブランシェットの競演。原作は、『見知らぬ乗客』『太陽がいっぱい』で知られる大人気作家パトリシア・ハイスミスが、別名義で発表しながらも大ベストセラーとなった幻の小説。監督は、『エデンより彼方に』の鬼才トッド・ヘインズ。さらに、50年代ニューヨークを美しく再現した魅惑的な衣装、名曲の数々、流麗なキャメラ……。まさに夢のような映画にワールドプレミアとなったカンヌは熱狂、批評家の星取りで見事にベスト1を獲得! ルーニー・マーラが最優秀主演女優賞の栄冠を手にした。

【クロスレビュー】

富田優子/ケイト・ブランシェットの最高傑作度&Most Beautiful度:★★★★★

『エリザベス』(98)での若きイングランド女王役で、その圧巻の存在感で瞬く間に地球を代表する女優となったケイト・ブランシェット。作品選びは当然、卓越した演技力とノーブルな美貌、やや低音の落ち着きのある声で筆者を魅了し続ける、好きな女優No.1の存在だ。『アビエイター』(04)でレオナルド・ディカプリオ、『バベル』(06)、『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』(08)でブラッド・ピット、『ロビン・フッド』(10)ではラッセル・クロウ、と錚々たる男優陣が彼女の恋人(or夫)役を務めたものの、正直なところ彼女と実力及び顔面偏差値的に真に釣り合う相手役の俳優がいるのだろうかと疑問に思う節もあった(いやもちろんラッセルさんも大好きなので『ロビン・フッド』でのケイトとラッセルの軽妙なやりとりには嬉しくなりましたよ、ええ)。ところがここにきて、彼女の優雅さとは対極にあるような可憐さを備えた、若手きっての実力派女優ルーニー・マーラが登場することに。あー!そうか!女性同士のカップルという手があったか!と自分の視野の狭さに苦笑せざるを得ない。彼女たちが織りなす愛の物語がこの世のものとは思えぬ美しさで、何度ため息を漏らしたことか。ルーニーってば、レオよりもラッセルよりもブラピよりもはるかにケイトとお似合いだ。稀有な相手役を得たケイト、過去のどの作品よりも最高の輝きを放っている。まさに彼女の「ゴールデン・エイジ」が到来したと言って良いだろう。

外山香織/ラストの表情必見度:★★★★★

恋をする人たちの仕草というのは、これほどまでに切ないのだろうか。冒頭、ふたりの女性がレストランで語らっているところに、ある男が割って入る。それを機にひとりの女性はもうひとりの女性の右肩に手を添えて別れを告げて立ち去る。男も、用を思い出して中座することを言い、残った女性の左肩に手を置いて去る。同じ「肩に手を置く」という行為なのだが、もう、全く意味が違うことが分かってしまう。このシーンだけではない。何気ない仕草……たばこを吸ったり、車を運転したり、食事したり、そのすべてに意味があり、ふたりは互いを手繰り寄せる。そして、最初に交わした視線が、最後の視線にまで繋がっていく必然。時は1950年代、ふたりの関係性は世間に受け入れられるにはあまりにも困難で、過酷な未来が見えてしまうだけに苦しい。偽らずに生きることと、その代償。ケイト・ブランシェットの最後の表情が、すべてを物語っているように見えた。

藤澤貞彦/クラシック映画のような“美しさ”度:★★★★☆

まるでD・リーン監督の『逢いびき』を思わせるようなファースト・シーンとシナリオの構成からして、既にクラシック映画の香りがする。時代は50年代ニューヨーク。男女の禁じられた恋は、女性同士の禁じられた恋に置き換えられる。二人が辿りつく場所は“ウォータールー”。かつてのメロドラマのタイトル(『哀愁(ウォータールー・ブリッジ)』)と似た名前を持つ所というその皮肉。この時代、同性愛を描くことは、オードリー・ヘプバーン主演『噂の二人』が精いっぱいの頃だった。トッド・ヘインズ監督は、クラシック映画の雰囲気に徹底的こだわっている。もしこの時代、自由に映画が作ることができていたら、こんな作品になっていただろうかとでもいうように。それは、まるで映画史の再構築を目指しているかのようでさえある。ただひとつ違うのは、「心に従って生きないと人生は無意味」こんな台詞を言えるメロドラマのヒロインは、当時の映画では考えられないこと。いや、今だってこんなことを言って実践できる勇気のある人は、そうそういないだろう。ケイト・ブランシェットだからこそそんな台詞がよく似合う。また、そのポイントがこの作品をクラシック映画の枠を超えたものにし、現代に通じるものにしているように思う。


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2016年2月11日(木・祝)より、全国ロードショー

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