不屈の男 アンブロークン

アンジェリーナ・ジョリー監督の反戦と平和への思いが込められた一作

fukutsu_main本作の原作には第2次世界大戦中の日本兵が生きたままの捕虜の人肉を食べたという記載があるそうで、そのことがネット上で話題となり、反日映画だ、日本で公開するななど一部で騒ぎ立てていた向きがあったが、まず述べておきたいのは本作にはそんな描写はない。アンジェリーナ・ジョリー監督はむしろ、良いバランス感覚を持ち合わせていると感じた。というのは日本兵による連合国軍捕虜の虐待を描く一方で、アメリカ軍の空襲で家族や財産を失い、悲嘆に暮れる日本人の姿も捉え、戦争の悲惨さを訴えている。彼女が日本を貶めるために本作に取り組んだのであれば、そんな描写を盛り込むわけがないはずだ。本作は特定の国を糾弾したり、過去の不幸を競い合ったりするものではない。そんな次元の低い話ではなく、全世界へ向けた反戦映画だ。

主人公はベルリン五輪(1936年)に高校生でアメリカ代表として出場した実在の陸上選手ルイ・ザンペリーニ(1917~2014)。五輪後、ルイ(ジャック・オコンネル)はアメリカ陸軍航空隊に入隊しB-24の搭乗員となるが、1943年、機体トラブルで太平洋上に墜落し、47日間の漂流を経て日本軍の捕虜に。そして捕虜収容所では所長の渡辺(MIYAVI)から徹底的にマークされ、終戦で解放されるまで理不尽かつ執拗な虐待を受けることとなる。

fukutsu_sub2ルイはイタリア移民2世で両親は英語を話せず、子供時代はいじめに遭う。だが俊足を生かしてトレーニングを積み、アスリートとしての才能が開花する。一部で言う反日とは、収容所での虐待の部分がフォーカスされていたように感じたのだが、原題の“UNBROKEN”とは収容所での過酷な生活に耐えたことだけではなく、少年時代のいじめや五輪のレースでの勝負を諦めなかった驚異的なラストスパートぶり、洋上での漂流も含め、度重なる苦境にあっても決して運命に屈することはなかったという意味が込められているのだと思う。実際、日本軍の捕虜となるシーンと同等に、漂流生活も多くの時間をかけて描かれている。『オール・イズ・ロスト 最後の手紙』(13)や『白鯨との闘い』(15)ばりの苦難の連続(サメとの格闘、飢えと渇きとの戦い、何よりも正気を保とうと振り絞る気力など)は、ドラマチックで見どころの一つだ。

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