クリード チャンプを継ぐ男

人生のバトンを引き継ぐ物語

Creed05720.dng今さらまたロッキーの続編かよと思った人は、その先入観をぜひ捨ててもらいたい。前作『ロッキー・ザ・ファイナル』はその名の通りシリーズの完結編という位置づけだったが、今作は過去6作に渡るロッキーの40年の人生の集大成であり、今作によってロッキーシリーズは本当の意味での完結を見たと思う。

今作は、元ボクシングヘビー級王者ロッキー・バルボア(シルベスター・スタローン)のライバルであり親友だったアポロ・クリードの非嫡出子アドニス(マイケル・B・ジョーダン)が自身のアイデンティティと向き合うためにロッキーの指導を受けプロボクサーへの道を歩む話になっており、これまでのシリーズの様にロッキー自身がボクサーとして闘う作品にはなっていないのが特徴といえる。その点で、この映画にはふたつの大きな見所が出来たと思う。

見所のひとつは主人公のアドニスの若さとがむしゃらさ。今の日本では毎号食事や筋トレの方法を解説する雑誌や、短期間で痩せるスポーツジムなどが一般的となり、スポーツや肉体改造において合理性や効率が重視される傾向にある。そんな世の中で、過去のロッキーの様に生卵5つ飲んでみたり肉のかたまりにパンチしたり膝に悪いと言われているうさぎとびをしたりすることは今ではバカらしく映るかもしれない。しかしいかに合理性や効率が重要になっても、過去のロッキーや主人公のアドニスの様に極限まで自分を追い込み過剰なくらいに頑張ることは若い時にしか出来ないこと。その姿はやはり尊く美しいと感じるし、それがロッキーシリーズが支持されてきた理由だと思う。

もうひとつの見所は、もう若くもなく、いろんなものを失ってきたロッキーのたどり着いた人生の境地。ロッキーは元々最底辺の生活をする学もなく話も苦手な人間で、恋人・親友・トレーナー・ライバル等多くの人の助けがなければ這い上がることが出来なかった若者だった。それが今作ではメンターとして若者を指導し、影響を与える側になった。そこが今作を筆者が完結編と位置付ける理由である。『ロッキー・ザ・ファイナル』までは飽くまでロッキー自身がボクサーとしてどう生きるかが主題であったが、40年を経てあの若かったロッキーがこの様な立場になった。特にロッキーシリーズをリアルタイムで見ていた人にとっては、今作のロッキーの立場に共感する年齢に差し掛かり、若かった過去を振り返るとともに今の自分の在り方を考えさせられるのではないだろうか。人生の終わりに少しずつ近づきつつある今、自分の生きた証を年老いたロッキーがどう残していくのか。そのあり方に深く感動した。

この映画は、『ロッキー』に影響を受けた監督のライアン・クーグラーがスタローンにシリーズの新作の話を持ち込んで作られたという。ロッキーに導かれたアドニスの様に、クーグラー監督もスタローンに導かれて素晴らしい作品を作った。今作には、スタローンが作ったシリーズへの尊敬と愛情が深く感じられる。スタローンにとっては過去の仕事への誇りを感じ、生きた証の残るものとなり、若いクーグラー監督にとっては人生の先輩からよき影響を受け、それをまた次世代に渡す道を歩み始める機会になったであろう。

12月23日(水・祝)、新宿ピカデリー・丸の内ピカデリーほか全国ロードショー

(C)2015 METRO-GOLDWYN-MAYER PICTURES INC. AND WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.

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