『リザとキツネと恋する死者たち』ウッイ・メーサーロシュ・カーロイ監督インタビュー

日本オタクのハンガリー人監督が贈る、摩訶不思議なファンタジー

ートミー谷を演じるデヴィッド・サクライさんが気になります。キャスティングの経緯を教えてください。

Liza_sub4_tommy監督:実は東京でもオーディションをしました。15人ぐらい俳優に会いましたが、ピンとこなかった。トミー谷に必要なエンターテイナーとしての雰囲気が今ひとつ足りなかったんです。次に、スポンサー企業のひとつがデンマークにあるので、デンマークの俳優をあたりました。デンマークは韓国からたくさんの孤児が養子に迎えられているのですが、そんな中の1人で、デンマークの王室劇団に所属している俳優を当初はキャスティングしていました。でも、撮影日程の関係で出られなくなってしまった。振り出しに戻った時に紹介されたのがデヴィッドでした。彼は日本人とデンマーク人のハーフです。アクション俳優でもあってすごく身体を作っているし、いろんな格闘技もできる。ダンスは未経験でしたが、日々ステップの練習を重ねて取り組んでくれました。

ートミー谷というキャラクターを演じてもらうにあたり、監督が求めたことは?

監督:実は結構複雑なキャラクターなんですよ。優しくて正直に見えながら、実は邪悪。裏では非常にネガティブなエネルギーをもっていて、怒りみたいなものを爆発的に表現できる、そういうトリッキーなキャラクター作りが重要でした。彼がかけているメガネですが、最初は実際トニー谷が使っていたような、もっと分厚くて黒い縁のメガネを考えていました。でも、それだと表面的な素直さのようなものが出ないし、派手なポップスターのようになってしまって、ちょっと違うと思ったんです。

-1970年代が舞台ですね。

監督:もちろんフェイクの70年代ですけど。70年代のハンガリーは資本主義ではなかったので、もちろんファストフードのハンバーガー屋さんもないし、(劇中に登場する)『コスモポリタン』という雑誌もありません。これはインサイダー・ジョークですが、映画の中でラジオから、カーダール・ヤーノシュ(ハンガリー社会主義労働者党の指導者)に“聞こえる”声が流れてくるシーンがあります。カーダールがよく言っていた“on the road to build communism”(共産主義建設の道のりで)という言葉をもじり、communism (共産主義)をcapitalism(資本主義)に言い換えて、声マネの上手い声優さんに吹き込んでもらったものを流しました。モデルのカーダールを知っている人には「あ、あの声だ!」とすぐ分かります。きっと日本の皆さんには伝わらないと思いますけど(笑)。リザはテレビで言われていることを従順に信じ、マクドナルドのような店のハンバーガーが大好きで、『コスモポリタン』の内容をぜんぶ鵜呑みにしていたりする。これは、資本主義に出会ったとき同じような行動をとった当時のハンガリー人の純粋さの象徴でもあるのです。

―共産主義だった監督の子供時代の思い出は、何か反映されていますか?

監督:60年代~70年代のハンガリーでは、半永久的に使えるような丈夫なモノを作っていたと思うんです。この映画にも登場させているのが、ラジオやテープレコーダー。今でもああいうものを使っている方はいますし、私も使っています。(インタビュアーのICレコーダーを指差して)こういう最近のレコーダーは50年、60年経つとこの規格のままで使うことはできないと思いますね。
あともう1つ、いかに共産主義下の社会で洗脳がうまく機能していたかという話になってしまうのですが、5歳の頃、父の友人から「将来何になりたい?」と聞かれ、私は「ソヴィエトの兵士として英雄になりたい」と大まじめに答えました。父は恥ずかしい思いをしたそうです。でも、完全に洗脳を受けていたので、その言葉は本心でした。ただ、成長するにつれて色々な情報を得るようになり、16歳になった頃には、ハンガリーの制度が変わらないのであれば、国の外に出たいと思うようになっていました。
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ー最初に小津安二郎や黒澤明などの名前が出ましたが、改めて監督に影響を与えた日本映画や映画監督は?

監督:『東京物語』はもちろん感動的ですし、黒澤明だと『乱』や『七人の侍』、北野武の『HANA-BI』も好きです。『やくざの墓場 くちなしの花』とか、深作欣二の作品は全部好きでコレクションしています。『リザ〜』の中で、「死者」などとフリーズフレームでバンと字が出るスタイルは、全部深作のやり方を真似しています。あと、宮崎駿の『千と千尋の神隠し』『もののけ姫』も好きです。

⇒ハンガリーの映画事情は…?

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