『リザとキツネと恋する死者たち』ウッイ・メーサーロシュ・カーロイ監督インタビュー
『アメリ』やアキ・カウリスマキの世界を彷彿させるようなキュートでレトロな映像から、何やら妙ちきりんな昭和歌謡風の音楽が流れてくる。『リザとキツネと恋する死者たち』(12月19日公開)は、ハンガリーから飛び出した異色のファンタージだ。
主人公は、元日本大使の未亡人の看護人として住み込みで働く孤独な女性リザ。彼女の唯一の友達は、日本人歌手、その名も「トミー谷」の幽霊だ。この幽霊、リザのいいお友達のように見えて、実はダークサイドに堕ちている。「ダンス、ダンス、ハバグッタイム〜♪」とあやしい日本語の陽気な歌とダンスでリザを油断させながら、恋をしたいと願う彼女に近づく男どもを、片っ端からお陀仏にしていく。
ウッイ・メーサーロシュ・カーロイ監督が、日本の「九尾の狐伝説」を盛り込んで作り上げた本作。筋金入りの日本オタクである同監督がその一風変わった感性を遺憾なく発揮し、本国でも熱心なファンを獲得して、ハンガリー映画として過去5年間で歴代2位の大ヒットを記録した。
今年8月に開かれたSKIPシティ国際Dシネマ映画際出品にあわせて来日した監督に、インタビューを実施。監督の“ヤバいくらいの日本愛”が詰まったその模様をお届けする。
監督:もともと日本には興味があり、黒澤明や小津安二郎の映画も観ていたし、芥川龍之介や深沢七郎の小説も読んでいました。でも、決定的な瞬間というのは寿司を食べた時なんです。27歳ぐらいの頃の話ですが、なぜかその時、頭に「故郷(ホーム)」という言葉が浮かびました。後にも先にも、何かを食べてそう感じたのはあの時だけです。
もちろん音楽も好きで、ドイツでリリースされた「Sushi3003」「Sushi4004」というJ-POPコレクションのCDを聞き込みました。ちょっとアングラなポピュラー・ミュージックですね。もちろん、ピチカート・ファイヴのように有名なアーティストの曲も入っていました。あと、夢にも日本が出てきました。1つ覚えているのが、神戸の海岸にいて、尼さんが海に潜って牡蠣をとってくるという夢。もう、これは日本に行かなくては!と思いましたね。
ー映画監督を目指したのはいつ頃ですか?これまでCMをたくさん撮られていますが、満を持しての映画監督デビューですね。
監督:1990年代ブダペストで大学生活を送っていた頃です。経済学を専攻していましたが、どこの大学にも熱心な映画クラブがあり、週に15本ぐらい集まっていろいろな映画を観ていました。そこで黒澤明だけでなく、トリュフォー、ベルイマンといった古い名作をどんどん観て、映画にとりつかれました。
映画監督デビューについては、実はそれほどハッピーな感じでもないんです(笑)。もちろん嬉しいですけど、人生というのは奇妙なもので。実は、リザ役のモーニカ(・バルシャイ)は私のガールフレンドで、彼女と一緒に暮らしているのですが、ハンガリーでのプレミア上映の頃に、動物シェルターから子犬をもらってきたんですよ。この子が居間にウンコしたりするので、2人でそれを掃除したり、2時間ごとに散歩に連れ出さないとダメで。寝不足だし、疲れていたし、いろいろ絶賛のレビュー記事が出始めたのに、僕「素晴らしレビューが載ったよ」彼女「あっ、そう」みたいな(笑)。でも考えてみれば、そういうふうに浮かれることなく地に足をつけて、監督デビュー作の成功を迎えることができたのも良かったと思います。
ー「トミー谷」のモデルになったトニー谷について。「1999年に来日した際に知った」と今年の大阪アジアン映画祭で来日した際の関連記事で読みましたが…。
監督:1999年の時点では知りませんでした。でも、その時も東京のタワーレコードで5時間聞きまくり、CDを山のように買いあさりました。ただ、オールディーズに関しては、99年よりもっと後のタイミングでYou Tubeなどで知るようになって、非常にユニークな音楽だと気に入りました。(ここでおもむろに「笑って許して」をスマホで流す監督)こういう曲をたくさんダウンロードして聴いています。最初、この曲を映画のオープニング曲にしたかったんですけれども、使用料が高すぎて叶わなかった。というのも、この曲は女性が歌ってるんだけど、ちょっと男性の声に聞こえなくもない。だから、トニー谷っぽいなと思ったんです。
ー最近のお気に入りの音楽は?
監督:最近というか、前からずっと気に入っているのは『ルパン三世』の楽曲のリミックス集「PUNCH THE MONKEY」。あと、Oh! penelope(オー!ペネロープ)の曲も好き。どれもインディペンデントですね。90年代の終わりくらいの素晴らしい曲です。あと、Fantastic Plastic Machineとか、そういうちょっとクレイジーな音楽をいろいろ聴いていました。(話しながら、どんどんスマホで曲を流す監督)ただ、活動が短期で終わってしまうバンドも多いようですね。