【FILMeX】念念(特別招待作品)

映画と。ライターによるクロスレビューです。

【作品解説】

Murmur of the Hearts(東京フィルメックス公式サイトより)
台東の沖にある美しい島、緑島で生まれ育つも両親の離婚で離ればなれになった兄妹ナンとメイ。シルヴィア・チャンの監督としての最新作『念念』は、成長した兄妹に、メイの恋人シァンを絡め、3人の若者たちの心の葛藤を繊細かつ大胆に描いた力作である。

【クロスレビュー】

富田優子/シルヴィア・チャンの監督としての才能を再確認度:★★★☆☆

両親の離婚で別れた兄と妹、妹の恋人の三人が親に対する愛情やわだかまりを抱えながら人生を模索していく物語だ。正直なところ妹の恋人の過去まで語れられたのは、やや盛り込みすぎに思う。兄と妹を軸とした物語のほうがすっきりしただろう。とは言え、今年のフィルメックスでは監督、女優、そして審査員と大車輪の活躍を見せたシルヴィア・チャン、本作を情感豊かに描き観客の涙腺決壊を誘っている。同時に多くの台湾人が忘れ去ってしまった緑島を舞台に選ぶなど、出身の台湾への思いも感じられる。また兄弟がいる者としては、「親は自分よりも兄(もしくは妹)のほうをかわいいと思っている」という嫉妬にも似た思いは多少なりとも抱えていたものだが、この繊細な感情を本作で巧みに掬い上げていたことに、監督としての才能を再確認させてくれた。
追記:クレジットに名前のあった“星星王子”さんって、例のバーにいたあのオジサンですよね・・・?あまりのインパクトで涙が一気に乾きました(苦笑)。
追記2:本記事掲載後にご指摘があり、“星星王子”さんはバーのオジサンではなく、ヒロインのカウンセラー役で出演とのことでした。いずれにしてもオジサン・・・。

藤澤貞彦/桂小金治さんを呼んできたい度(古すぎるか・・・):★★★★☆

人とは記憶で造られる生き物である。自分にも、風景が変わっているというのに、ふと子供の時の記憶が蘇り迷わず道を歩いてしまったことがある。そう、それは紛れもなく亡くなった従姉が真新しい自転車で走って来た道だと。この作品にはそんな鮮やかな瞬間がある。母親の影響を強く受けた兄妹が、その後離れ離れになり、連絡先さえわからなくなってしまう。二人ともその後、失った者へのトラウマを抱え、心を閉ざして生きている。これは、記憶を辿る旅。記憶は思いだされ、加工され、やがて自分を再生させる道標ともなる。夢、幻はまさに記憶の再加工。親は亡くなっても、決して死なずに影響を与え続けるもの。母親が話してくれた人魚のお話が、物語全体の基調をなしているから奇跡もすんなり受け容れられる。ひとつの人魚のお話が、バリエーションを少しずつ変えて話されたように、これは、別のどこかの誰かの物語にもなり得るだろう。主人公が不思議な体験をするバーで、鳴り響いていた風鈴の音。その使い方が素敵だった。


▼第16回東京フィルメックス▼
期間:2015年11月21日(土)〜11月29日(日)
場所:有楽町朝日ホール・TOHOシネマズ日劇・有楽町スバル座
公式サイト:http://filmex.net/2015/

トラックバック URL(管理者の承認後に表示します)