【TIFF】ビースト・オブ・ノー・ネーション:キャリー・ジョージ・フクナガ監督会見
日本でも市場が拡大の一途をたどっている動画配信サービス。世界で6900万人のユーザーを誇るNetflixがサービスを開始してから2ヵ月あまり経過したが、そのNetflix初のオリジナル映画『ビースト・オブ・ノー・ネーション』が先頃、東京国際映画祭パノラマ部門で上映された。これにあわせて、本作のキャリー・ジョージ・フクナガ監督が来日。記者会見を行った。
本作は、9月のヴェネチア国際映画祭でもコンペティション部門に出品され、好評を得た作品。ナイジェリア人作家ウゾディンマ・イワエラの同名小説がもとになっている。西アフリカを舞台に、幸せに暮らしていた少年アグーの日常が内線の混乱で一転。家族と離ればなれになったところを武装軍に捕らえられ、兵士へと変化していく様を描く。「大学で政治学を学んでいたとき、西アフリカで起こっている資源をめぐる戦争について知り、これを題材にした作品を作りたいと15年くらい考えていた」というフクナガ監督。映画を学んでいた2005年に原作小説に出会い感銘を受けたといい、構想10年という渾身の作品が誕生した。
映画では、無邪気な少年が生きるために武装軍に加わり、絶対的な力で少年達を支配するコマンダーのもと、いかにして殺人をも厭わない兵士になっていくのかという、世界の紛争地域で等しく問題になっている少年兵の実態が明らかにされる。狂気を帯びたコマンダーを演じる実力派イドリス・エルバのさすがの名演もさることながら、少年アグーにキャスティングされた演技未経験の少年エイブラハム・アッターの頑張りが光る。明るい子どものきらめきから、武装軍での恐怖と困惑の表情を得て、終盤には厭世的な老人のような顔を見せる。少年兵役には「現地の子供たちを起用することにこだわった」という監督。「撮影現場のガーナにスカウトを送り、放課後サッカーをしていたアブラハムに出会って、子供ながら弁が立ったのでオーでションに呼んだ。利発な少年で、一生懸命努力してくれ、映画初出演とは思えないほど上手く演じてくれた」と絶賛した。
フクナガ監督は、長編劇映画デビュー作『闇の列車、光の旅』でも、中南米から米国を目指す不法移民の少年少女の運命を描いていたが、美しくも悲哀を感じさせる映像表現が非常に巧み。『ビースト・オブ・ノー・ネーション』については映画の完成後にNetflixでの公開が決まったそうだが、劇場公開用の作品とネット配信用の作品の違いについて、作り手として意識することはないのだろうか?「制作のプロセスに関しては、TVシリーズの『TRUE DETECTIVE/二人の刑事』であっても、映画『ジェーン・エア』であっても、フレーミングなどについて自分の作り方は変わりません」という。さらに「作品を作った以上は多くの人に観てもらいたい。世界中に6,900万人のユーザーを誇るNetflixなので、これだけ多くの人々に届けられるというのは素晴らしい」とネット配信のメリットについて語った。
『ビースト・オブ・ノー・ネーション』は、10月16日に世界中のNetflixユーザーに独占配信がスタートしたと同時に、全米で劇場公開されている。ネット×劇場展開を同時に行う新しい試みについて、Netflix.K.K.のグレッグ・ピーターズ代表取締役社長は、「できるだけ多くの人に、多くの選択肢を提供したい」とその理由を説明。「日本でも今回映画祭で上映されましたが、世界の幸運な人たちには、劇場で素晴らしい映像を体験する機会がある。でも、そういう機会がない人もたくさんいるし、また、映画館には行かずに自宅で観たい人もいる。そうした人々にも、4K映像やサラウンド音響など、最先端のテクノロジーを駆使した環境で作品を楽しんでもらいたい」と語った。
観たいときに映画を観る。映画館のスクリーンで観ることをよしとする映画ファンは寂寥を覚えるかもしれないが、優れた作品を手軽に観られるメリットは大きい。動画配信サービスの今後の流れから目が離せない。
▼作品情報▼
『ビースト・オブ・ノー・ネーション』
原題:Beasts of No Nation
監督・製作・脚本・撮影:キャリー・ジョージ・フクナガ
出演:イドリス・エルバ、エイブラハム・アッター
Netflixにて独占プレミア配信中
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