【TIFF】地雷と少年兵(コンペティション)

映画と。ライターによるクロスレビューです。 ※『ヒトラーの忘れもの』の邦題で、2016年12月17日より劇場公開。

【作品解説】

終戦直後、デンマークの海岸沿いに埋められた無数の地雷の撤去作業に、敗残ドイツ軍の少年兵が動員される。憎きナチ兵ではあるが、戦闘を知らない無垢な少年たちを前に、指揮官の心情は揺れる。憎しみの中、人間に良心は存在するか? 残酷なサスペンスの中で展開する感動のドラマ。

本作はフィクションであるが、史実をベースにしている。二次大戦中にデンマークの海岸に埋められた地雷の数は2百万個に上り、戦後にその処理で900人が死んだという。脚本家としても実績のあるザンドヴリエット監督は、アルコール依存症からの復帰を期す人気女優(『Applause』)や、タイに妻を求めに行く孤独なボディービルダー(『Teddy Bear』/脚本参加)など、特異な人物像の造形に長けている。新作では、良心の痛みと葛藤する指揮官と、背負わされた罪の重さを自覚しながら明日を夢見る少年たちを描く脚本を、3年がかりで完成させた。少年兵を全員新人が演じていることや、死の恐怖と残酷なコントラストをなす美しい海岸線が、実際に地雷が撤去された場所で撮影されたことなどが映画のリアリティを高めている。(TIFF公式サイトより)

【クロスレビュー】

富田優子/必見度:★★★★★

デンマークの美しく白い海岸に多数の地雷がナチスの手によって埋められている。「贖罪」のようなかたちでドイツの少年兵に地雷を撤去させるというのは、ある意味では合理的なのかもしれないが、ナチスの罪を子供に押しつけて良いのか・・・と疑問に思わざるを得ない。だが、少年兵を監督する鬼軍曹の心の変遷の到達点こそが、今の世界にも必要なのではないだろうか。戦勝国であろうともナチスであろうとも、まずは互いを人間として認めることができれば和解の糸口はあるはずだ。同時に本作のベースとなった史実が、デンマーク国内でタブー視されていることの意味を考えることで、負の歴史と向き合う覚悟を問うている。必見。

外山香織/目を覆うシーンはあれど観るべき映画:★★★★★

地雷がいつ爆発するか終始眉間にシワを寄せて観てみていたので、終わった後は顔が疲れてしまった。ナチスが埋めた地雷を撤去する作業をドイツ少年兵にさせるデンマーク軍。自国のダークサイドに踏み込んだ内容であるし、なにより観客は少年兵に肩入れして観てしまう(しかも少年達は皆イケメンを揃えておりビジュアル的にも「ドイツ憎し」とは持っていかせない戦略)ので、本国で上映された時の反応ってどうだったのかと心配してしまう。その点については上映後のQAで監督も話していたが、本作は善悪の白黒をつけるものではないということ。デンマーク人の軍曹も、時には鬼となり時には父親になる。そうなのだ。おそらく多くの人間は常に「いい人」でいることはできない。それでも、正しい選択、行動をとろうと努力することは可能だ。映画祭直前に日本での配給も決まったと聞く。必見。


© Danish Film Institute
106分 デンマーク語、ドイツ語 カラー | 2015年 デンマーク=ドイツ | 


【第28回東京国際映画祭】
開催期間:2015年10月22日(木)〜10月31日(土)
会場:TOHOシネマズ六本木ヒルズ、新宿バルト9、新宿ピカデリー、TOHOシネマズ新宿、東京国立近代美術館フィルムセンター、歌舞伎座
公式サイト: http://2015.tiff-jp.net/ja/

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