【TIFF】神様の思し召し(コンペティション)

映画と。ライターによるクロスレビューです。

【作品解説】

既に脚本家としてのキャリアも長いファルコーネ監督は、伝統的なイタリアのコメディ映画を愛しており、監督第1作となる本作では、身の回りの現実をユーモラスに、かつ世俗的に描くことを目指したという。巷にはびこる、聡明なふりをしながら自分の欠点には全く目を向けないような人間たちをモデルに、傲慢な医者のキャラクターを作り、神父との出会いで彼の人生と価値観がひっくり返ってしまうドラマを完成させた。「軽いコメディであるが、軽すぎない」と監督が自ら語るように、不寛容が蔓延する現代社会において、人の心が本来持っている柔軟性と優しさに気付かせてくれる貴重な作品となり、イタリア本国におけるファルコーネ監督への評価も急上昇している。(TIFF公式サイトより)

【あらすじ】

トンマーゾは腕利きの心臓外科医。しかし自分の腕の良さを隠そうともしない傲慢な性格だ。長年連れ添っている妻カルラとの仲は冷え気味である。子供はふたり。姉のビアンカは、ずぼら人間だ。期待をかけている弟のアンドレアは、医大に通わせ、トンマーゾの後を継ぐ準備もできている。しかし、最近アンドレアの様子がおかしい。アンドレアの告白の前に、家族全員が心の準備をするが、それは全く予想もしない内容だった!巧みな展開に笑わされ、やがて人間の心の奥深さに感動する、フィールグッドな大人のコメディドラマ。

【クロスレビュー】

外山香織/神様の思し召し(God Willing)に納得度:★★★★★

医大生の息子から神父になりたいと告白を受けて慌てふためく高名な心臓外科医の男。なんせ自分は「神など存在しない」「神に感謝などせず自分に感謝せよ」と常に上から目線の傲慢な態度。ところが、息子の心変わりの理由を探るうちに自分とはまるで違う「他者」を発見し、自身も変わっていく。その過程がユーモラスでオチまで見事な展開である。しかも、主人公の住む高級住宅のバルコニーから見えるのはヴァチカンのサンタンジェロ城ではなかろうか? 総本山のお膝元にいながら不遜な態度を取るというのも皮肉で、人間はどんな環境にいても変わらない時は変わらない。しかし、なんらかの気づきを契機に、驚くほど変わるのも人間である。軽妙な語り口でありながら、観客にも押しつけがましくない気付きを与える、巧さが光る作品。

北青山こまり/今の自分を少しだけ変える勇気がもらえる度:★★★★★

傲慢なエリート医師・トンマーゾの人生が、ムショあがりのカリスマ神父・ピエトロとの出会いでひっくり返る。イタリアらしい明るさ、変人ばかりのキャラクターたち、キリスト教の自分ツッコミ連発。ドタバタがドタバタを呼ぶコメディ展開に、客席には大きな笑いが起きていた。心が迷っているなら「神」と向き合え、とピエトロは教える。ごく普通の毎日のなか、気持ちが動いて、勇気を出して、小さく進歩すればいい。自分を「神」と名乗ってはばからなかったトンマーゾが、混乱の果てに自分を省みて周りに対して優しくなれたことも、壊れかけた一家が絆を取り戻すことができたことも、もっと言えばピエトロと出会うことになったなりゆき含め、こういうことがすべて“神様の思し召し”なのかな。
友だちになった二人が肩を並べ、美しい自然を眺める場面がとても印象的。

鈴木こより/愛すべき家族に爆笑度:★★★★★

医学生の息子が突然信仰に目覚めることから、一見上手くいってるように見えた家族が混乱に陥っていく。一家の絶対的な主であり医者でもある父親は、迷える子羊たちを元の生活に引き戻し、絆を回復することができるのか…。「人を救えるのは信仰か科学か」という普遍的でシリアスなテーマに触れながら、家族の再生物語を軽妙に鮮やかに描いた良質なイタリアン・コメディ。数分に一度笑わされるが、とくに娘が聖書を読もうとして速攻挫折するシーンなど、共感するのと同時に「え、イタリア人も?」というイメージとのギャップに爆笑。彼らの宗教観やカトリックをブラック・ユーモアたっぷりに語っているものの、信仰への視線はポジティブで新鮮。科学偏重の現代社会に、置き去りにしてきた価値観を改めて問う意欲作。


© 2015 WILDSIDE
87分 イタリア語 カラー | 2015年 イタリア | 


【第28回東京国際映画祭】
開催期間:2015年10月22日(木)〜10月31日(土)
会場:TOHOシネマズ六本木ヒルズ、新宿バルト9、新宿ピカデリー、TOHOシネマズ新宿、東京国立近代美術館フィルムセンター、歌舞伎座
公式サイト: http://2015.tiff-jp.net/ja/

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