【TIFF】フル・コンタクト(コンペティション)

映画と。ライターによるクロスレビューです。

【作品解説】

砂漠の中、兵士が小屋で画面に向かい、ドローンを操作して標的を爆撃する。遠隔殺戮のトラウマが蓄積した男がたどる精神の旅を、迫力の映像と想像力に満ちた展開で描く驚愕のドラマ。

中華圏で作品を製作するなど、ボーダレスな活動によって国際映画祭の常連となっているオランダ出身のフェルベーク監督の新作は、米軍のパイロットを主人公にした一見無国籍でシュールな戦争心理ドラマである。ヴァーチャル空間とリアル空間の混合は、カンヌ映画祭に出品された『r u There』(10)でも描かれたが、本作ではモニタースクリーンを通じた遠隔操作で大量殺りくを行う兵士のトラウマの行方を追及し、ヴァーチャルと肉体の関係を全く独創的な形で表現している。主演のグレゴワール・コランはクレール・ドゥニ監督作品の常連俳優として知られ、河瀬直美監督『七夜待』(08)にも出演している、フランスを代表する個性派俳優のひとり。(TIFF公式サイトより)

【クロスレビュー】

富田優子/不思議で独特な精神世界にびっくりぽん度:★★★☆☆

主人公は荒涼とした大地にポツンと立つ小屋で無人戦闘機の遠隔操作を担当している。そして誤爆をしてしまった彼はどうなるのか・・・と、少しドキドキした後、唐突な展開になるのでびっくりぽんだった。格闘技で痛みを感じて、心の再生を図ろうとする主人公だが、その対戦相手を痛めつけるという行動には、戦争(もしくは反戦)映画と考えてしまうと嫌悪感を覚える。しかしトラウマ克服映画という精神世界を独特に表現したという見方をすれば、まぁ斬新であるのかな・・・と。ただ、どうしてもバックグラウンドが戦争なので、トラウマが克服できても誤爆した罪はどうなるのか等、戦争と切り離せずモヤモヤ感が募る。非常に独特な世界観を見せてもらったが、戦争以外の題材を選んでほしかった。

外山香織/観終わった後の疲労度:★★★★★

人が人を直接殺す戦争から、ドローンによる戦争へ。遠隔で人を殺す兵士が、誤爆により人を殺してしまった事を契機に変貌していく。モニター越しの殺人は肉体的な実感を伴わない。それだけに直接的でリアルな感覚を求めたくなってしまうのだろうか。ストリッパーとの関係や格闘技を通じて、肉体と肉体が対峙する感覚を得る。しかしながら兵士の中に徐々に積もっていく精神的ダメージを象徴するのはやはり途中で挿入される海辺のシーンなのだろう。虚構なのか現実なのか。どちらにせよ、人を傷つけ続けることから解放されない悪夢。観終わった自分もまた、男と同じ悪夢の中に取り残されてしまった。


© Lemming Film 2015
105分 英語、フランス語 カラー | 2015年 オランダ=クロアチア | 


【第28回東京国際映画祭】
開催期間:2015年10月22日(木)〜10月31日(土)
会場:TOHOシネマズ六本木ヒルズ、新宿バルト9、新宿ピカデリー、TOHOシネマズ新宿、東京国立近代美術館フィルムセンター、歌舞伎座
公式サイト: http://2015.tiff-jp.net/ja/

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