【TIFF】スリー・オブ・アス(コンペティション)

映画と。ライターによるクロスレビューです。

【作品解説】

NOUS 3 OU RIEN0フランスの人気コメディアンであるケイロンが、父の若き日を演じ、自らメガホンも取った感動の実話ドラマ。イラン政権に異を唱える活動家であった父は、1983年にフランスに亡命する。当時1歳であったケイロンは、新しい環境に懸命に適応し、息子に良い教育を受けさせるために闘う偉大な両親のもとで育つ。やがてケイロンは教育者として数年を過ごした後に、パフォーマンスアートに身を転じ、ネガティブな状況も笑い飛ばすスタイルで人気を博す。移民問題に揺れるヨーロッパにおいて移民を扱う映画が多く製作される中、笑いとポジティビティーで彼らの苦闘を語るという点で本作は貴重であり、移民側からの応えのひとつである点で、時代を画する作品である。(TIFF公式サイトより)

【あらすじ】

イラン南部の小さな村。大家族の中の大勢の兄弟のひとりとしてヒバットは産まれた。兄弟たちはみなそれぞれの道を歩むが、ヒバットは反政府運動に関心を持つようになる。弾圧的な政府により逮捕され、長期に渡り投獄されてしまうヒバットであるが、彼はそんなことでひるむ男ではなかった…。

【クロスレビュー】

富田優子/主人公の亡命ルートが『LOTR』並の険しさへの衝撃度:★★★★☆

ケイロン監督の父親の実体験を基に、監督自ら父親役を演じていることもあり、家族や仲間への愛に満ちていて心温まる作品だ。イスラム革命で故国イランから政治亡命せざるを得なかった主人公だが(その亡命ルートが結構なスケールで息を呑む)、新天地フランスで地域に溶け込み、人々のために汗を流し、信頼を得ていく姿は、恐らく移民や難民の理想形だろう。だが現在の欧州は難民問題で大揺れ。本作のような寛容さは失われている。過去を術懐した監督だが、現在の殺伐した空気をどのように感じているのだろうか。この時期に本作を発表した理由なども併せて聞いてみたかった。スケジュールの都合により来日できなかったのが残念。

外山香織/妻の根性の座り方に拍手!度:★★★★★

「1人の楽園より、共に地獄を」。家族を置いて亡命しようとした夫に妻が放った言葉である。独裁政権下での投獄や政治亡命、そして移民としての生活…波乱に満ち溢れた男の半生を、重苦しさ一辺倒ではなく未来に希望を込めたユーモラスな筆致で描くことができたのは、監督・主演を務めたケイロンがこのような両親の元で育ったからなのだろう。スリー・オブ・アス。この3人だから乗り越えられることもある。「1人の楽園」を優先するあまり「自分(達)さえよければ」と言う狭量な考え方が蔓延する時代。異国の話とのみ捉えるのではなく、自国に置き換えてみてもハッとさせられる物語だ。


© 2015 – ADAMA PICTURES – GAUMONT – M6 FILMS – CENTAURE
102分 フランス語 カラー | 2015年 フランス |


【第28回東京国際映画祭】
開催期間:2015年10月22日(木)〜10月31日(土)
会場:TOHOシネマズ六本木ヒルズ、新宿バルト9、新宿ピカデリー、TOHOシネマズ新宿、東京国立近代美術館フィルムセンター、歌舞伎座
公式サイト: http://2015.tiff-jp.net/ja/

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