【LBFF】/【TIFF】土と影
庭にどっしりと根を下ろす一本の大きな木がとても印象的である。何世代もの家族の歴史を、そこで見守って来たであろう一本の樹木。その木の下には、手造りのベンチが置かれている。ここが常に、バラバラになっていた家族の心と心を繋げる舞台となっていることが象徴的だ。木には、家族のさまざまな楽しい思い出と苦労の涙が沁み込み、そして今もこの一家を静かに見守っているのである。なぜアルフォンソの妻が、この家に留まり続けようとしたのかは、はっきりとは描かれてはいない。しかし、この木が彼女の思いを代弁している。それ故にこの映画の最後は、木の下のベンチで終わる。
また、木には家族の歴史だけでなく、村の歴史も沁み込んでいる。サトウキビ畑をよく見てみれば、ところどころに大きな木が点在していることがわかる。その木の一本、一本には家が存在していたはずである。一面のサトウキビ畑は、かつて村だった。ガラクタの中から出てきた一枚の馬の写真。かつてアルフォンソが大切にしていただろうこの馬の写真に写りこんだ生い茂った垣根。この二点だけで、かつてのこの村の風景が蜃気楼のように眼前に迫る。
家のすぐ裏手にあるサトウキビ畑が燃やされる。家は赤い炎に照らされ、庭には雪のように灰が積もる。あの赤い炎は、一家の静かな怒りなのか。その灰は、失われた村、失われた人の燃えカスなのか。翌朝、サトウキビが無くなった家の周りの風景が突然開けると、ここがそんなに広い村だったのかという驚きが生じる。それと同時にこの家の孤立がいかに深いものかが、歴然となる。村が消滅したのは、コロンビアの国策によるものだ。政府は国内のサトウキビ関連産業を保護し、作付面積の拡大が困難と言われるほどまでに、これまでサトウキビ畑を拡大してきた。最近では、サトウキビによるエタノール生産も促進され、ますます増産が期待されている。そんな中で犠牲になったのが、この村であり、この家族なのだ。映画の冒頭、我が者顔に走っていくトラックには、実は見えない国家の存在が張り付いていたのである。
※カンヌ映画祭カメラドール(新人賞)受賞作品
※こちらの作品はTIFF2015と共催上映(10.26、10.27)となっております。
▼第12回ラテンビート映画祭開催概要▼
【東京】10月8日(木)~12日(月・祝)
会場:新宿バルト9(新宿三丁目イーストビル9階)
【大阪】10月23日(金)~25日(日)
会場:梅田ブルク7
【横浜】10月30日(金)~11月1日(日)、3日(火・祝)
会場:横浜ブルク
公式サイト:http://www.lbff.jp/
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