【LBFF】/【TIFF】土と影
一人の初老の男が、背の高いサトウキビ畑の間を通る一本道を歩いてくる。アルフォンソ。家族を捨てて街に出て以来、17年ぶりの帰郷。彼の背後から大型のトラックがやってくる。辛うじて畑の中に避けた男の脇を、モウモウと土煙りを立てて走り抜けていく。そこに人がいることなど意に関しない。むしろこんな所を歩く奴が悪いと言わんばかりに。トラックが過ぎ去った後も、しばらく辺り一面は煙って何も見えない。辛うじて道がぼんやりと現れ始める頃、アルフォンソはようやく畑から逃れ、再び歩き始める。家では、重い病に伏した息子や幼い孫マヌエルが待っている。この作品のファースト・シーンは、企業とそこに住む住人の関係性を、そこに凝縮させる。このシーンは後に、孫と歩くアルフォンソが、ソフトクリームを持った孫を守るために、覆いかぶさるという形でリフレインされ、彼の家族への思いを象徴させることになる。
家には、別居後も家を守り続けた妻、ひとり息子と嫁と孫が身を寄せ合って暮らしている。息子は肺を病んでそれ以来、ベッドから起き上がることさえできない。彼の元雇い主は、病気になればポイ捨てで、何の補償もしようとはしない。妻と嫁は、例え給料も滞りがちであっても、かつての夫の雇い主が経営する、サトウキビ畑の過酷な労働に毎日通う。家計はかなり苦しい。コロンビアの貧しい農民の過酷な暮らしがそこにある。孫はまだ幼く、その面倒を見るためにアルフォンソは呼びもどされたのだった。
彼らの家は、サトウキビ畑に囲まれていて、そこからは何も見えない。庭先にまでサトウキビは迫っていて、それが一種の息苦しさをもたらしている。それでもこの作品は、何も見えない風景の先にあるものを私たちに見せようとしている。家には常に灰が降ってくる。焼畑をしている、その灰が風に流れてやってくる。そのため、窓はいつも締め切っていなければならない。健康被害などまるで気にしていない、企業の姿勢がそこから見えてくる。庭に植えてある草花の葉に積もった灰を、アルフォンソは一枚一枚丁寧に拭き取ろうとする。そうした努力がここでは無駄なことが、まもなくわかる。孫に作ってやった、鳥の餌箱。息子がまだ幼かった頃にしてやったことを、再び孫に伝えようとする。しかし、そこに鳥は降りてこない。それが意味するものとは。