【LBFF】グラン・ノーチェ!最高の大晦日

華麗なる欲望とスキャンダルの世界へようこそ

グラン・ノーチェ!最高の大晦日スペインの鬼才アレックス・デ・ラ・イグレシア監督の新作は、大晦日の歌番組を収録中のテレビ局が舞台。さまざまな人間たちが出入りする群像劇のため、配役がとにかく豪華。監督の奥さまのカロリーナ・バング。それと同時に、ペドロ・アルモドバル作品でも、その可憐さが印象的だったブランカ・スアレスが、不吉な女として登場。いうなれば美女の二枚看板である。ついでに『アイム・ソー・エキサイテッド!』で彼女とからむカルメン・マチ(『ペーパーバード 幸せは翼にのって』)までが、カメラを切り替えるディレクター役で出演。『スガラムルディの魔女』の3人組、ウーゴ・シルバはカロリーナ・バングの夫役で再び彼女とコンビを組み、ジェイミー・オルドネスは精神を病んだ殺し屋、マリオ・カサスはスキャンダルをいつも気にする売れっこ歌手役でそれぞれ出演。『スガラムルディの魔女』で不運な人を演じたペポン・ニエトが、再び運の悪い人、エキストラのホセ役で、この群像劇の中心となっている。

常連たちにも事欠かない。イグレシア・ワールドのいじめられっ子こと、カルロス・アレセス(『気狂いピエロの決闘』)は、スペインの国民的歌手アルフォンソの息子役で、案の定父親に大いにいじめられる。(そういえば、彼も『アイム・ソー・エキサイテッド!』組だった)さらには、『どつかれてアンダルシア(仮)』のサンティアゴ・セグーラ(トレンテ刑事シリーズ)も顔を見せ、イグレシア作品には欠かせない二大スター?スペイン版マーティ・フェルドマンことエンリケ ・ヴィレン、意地悪ばあさんことテレール・パベスも相変わらずのクセ者ぶりを見せてくれる。この配役だけでもイグレシア・ワールドを堪能できること請け合いである。

テレビの華やかな世界、その裏にはさまざまな欲望が渦巻いている。スキャンダルネタを追いかける者、スターを陥れ大金を手にしようと画策する者、局のお金を不正に流用しようとする者。国民的歌手アルフォンソでさえ、例え年を取っても自分が一番でなければ気に入らなく、そのためには、プロデューサーを脅すなどあらゆる手を使う有り様だ。ちなみにアルフォンソを演じるのは、本物のスペインの国民的歌手ラファエルで、トム・ジョーンズとの共演の話や、イグレシアス親子なんて知らないと言い放つところは、楽屋落ち的なギャグであると想像できる。舞台で繰り広げられる華やかなショーの裏には、狭く入り組んだ通路と楽屋が存在し、出演者たちは表と裏の顔をそれぞれで使い分ける。カメラはその場を、縦横無尽にすごいスピードで駆け抜けていき、そのすべてを余すことなく写しだす。

客席に目を移せば、ディレクターの指示に従っただけの嘘の笑い声があがり、10月というのに「ハッピー・ニュー・イヤー」と、サクラ役のエキストラたちが馬鹿騒ぎしており、一層の虚しさを感じさせる。それだけでなく、客席のテーブルに置かれたご馳走が、すべてプラスチック製の偽物であるところが、何よりテレビの世界の偽物感を醸し出しているとも言えよう。またこれは、日本名物の食品サンプルそのものであることから、昨年来日したイグレシア監督夫妻が日本で発見したものに違いなく、私たち日本人にとっては別の感慨もわいてくるというオマケが付いている。

イグレシア監督作品には、しばしば映画の記憶が濃厚に染みついているのだが、果たしてこの作品を観ていて思い出したのは、ピーター・セラーズ主演『パーティ』(68年)であった。ピーター・セラーズ扮するインド人のエキストラが、ハリウッドの派手なパーティに入りこみ、メチャクチャにしてしまうというもの。皆上品ぶってはいるが、いざ化けの皮を剥がせばとんでもない俗物ばかりという、ハリウッドの軽薄さを痛烈に風刺したコメディである。ただ、ハリウッドのパーティ自体は、中身は偽物とはいえ、外見的には本当に行われているものであったのに対して、テレビの世界は、すべてが偽物で成り立っているところが、決定的に違う。そこにテレビの世界の特徴がよく出ているのではなかろうか。本作は映画の世界に対して、テレビの世界を痛烈に風刺した作品といえるのだが、この両作の落とし所が、実はこのうえなくよく似ているところが、興味深い。


▼第12回ラテンビート映画祭開催概要▼

【東京】10月8日(木)~12日(月・祝)
会場:新宿バルト9(新宿三丁目イーストビル9階)
【大阪】10月23日(金)~25日(日)
会場:梅田ブルク7
【横浜】10月30日(金)~11月1日(日)、3日(火・祝)
会場:横浜ブルク
公式サイト:http://www.lbff.jp/
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