『アクトレス 〜女たちの舞台〜』オリヴィエ・アサイヤス監督インタビュー

「これは現在のジュリエット・ビノシュのポートレート」

olivier assayas スイスに向かう特急列車の車内。2台のスマートフォンを同時に駆使して仕事に追われる若い女性がいる。大女優マリア・エンダースのアシスタント、ヴァレンティンだ。マリアは、新人時代の彼女を見出してくれた劇作家メルヒオールの功労を讃える式典に出席すべく、チューリヒに向かっているところ。しかし2人は、目的地に着くのを待たず、メルヒオールの急死の知らせを受けるーー。マリアとヴァレンティンの会話、スケジュール調整に追われるヴァレンティンの対応から、少しずつマリアが置かれている状況とこの2人の女性の関係性がちらつき、一気に興味をかき立てられる。映画『アクトレス〜女たちの舞台〜』はこうして幕を開ける。
 物語はその後、マリアが自分が世に出るきっかけとなったメルヒオールの舞台「マローヤのヘビ」のリメイクへの出演依頼を受けることで動き出す。マリアがオファーされたのは、当時演じた若い主人公シグリットではなく、彼女に翻弄されて自殺する中年の会社経営者ヘレナの役。「マローヤのヘビ」のタイトルの由来となった自然現象が起こる景勝地シルス・マリアで、マリアはヴァレンティンを相手に役作りに臨むが、ヘレナという役を受け入れることができない…。
 マリアを演じるジュリエット・ビノシュの円熟の芝居と、これまでアイドル女優的扱いを受けてきたクリステン・スチュワートが真価を見せつけて圧倒的。そして、それらを引き出したオリヴィエ・アサイヤス監督の手腕が冴えわたる作品だ。『クリーン』(04)や『夏時間の庭』(08)など、時の流れに向き合う人間の心の機微を繊細にすくい取ってきた同監督の、一つの到達点とも言える傑作の誕生。若さへの執着と成熟との間で揺れる女性心理の洞察の深さに驚かされる。
 今年の6月にフランス映画祭参加のために来日したアサイヤス監督へのインタビューをお届けする。


アクトレス~女たちの舞台~メイン

ーデリケートな女性心理を描かれたこの作品を、男性であるアサイヤス監督が撮られたことに驚きました。インスピレーションはどこから得たのでしょう?

インスピレーションを与えてくれたのはジュリエット・ビノシュでした。そもそもこの映画は、彼女と私の何か一緒に作りたいという欲求から生まれたと言っていい作品です。ですから、これは「成熟」という問題を自らに提起している現在のジュリエット・ビノシュのポートレートになっています。彼女は惜しむことなく自分を役柄に投影してくれ、その演じ方や解釈の仕方はマリアという人物を越えて、ほかの登場人物への視点も豊かにしてくれました。

ービノシュとヴァレンティン役のクリステン・スチュワート、シグリットを演じるハリウッドの人気女優ジョアン役クロエ・グレース・モレッツという3人の競演も見どころです。この3人の女性の設定にモデルはいましたか?

マリアはビノシュ以外の誰でもありませんが、ジョアンのキャラクターは今日のアメリカの若い有名女優という存在を念頭に作っています。つまり、演じた役の力ではなく、インターネットで拡散するスキャンダルやスクープのおかげで有名になった女優です。誰がモデルに?と想像すると、何人もそういう女優は見つかりますよね。ただ、私が少し戯れをした部分があるとすれば、ヴァレンティンを演じたクリステンが、かつてそうしたメディアの名声の主役であり、犠牲者でもあったというところです。ですから、クリステンに、そうした名声を観察する役割を演じさせるというのはとても皮肉なこと。彼女は今回、この役を通して、自分自身に対するメディアの扱いを斜に構えて見ているという形になっているのです。

ーヴァレンティンのキャラクターが面白いです。若いのに解釈がしっかりしていて、まるで現実の存在ではないのでは?と思えるほど深みがある。クリステンが演じたから、より一層深みが出たという側面も?

アクトレス~女たちの舞台~:サブ2もちろん、登場人物の設定やシナリオでそのように書いていたのですが、クリステンがもたらしたものが多いことは確かでしょう。ヴァレンティンの中にある知性や内面的な部分を、彼女が自分自身の中に見つけ出してくれたこと、それが重要だったと思います。そのおかげで、あのキャラクターの持っている深みが観ている者にも信じられる。さまざまなニュアンスを表現できる演技の幅の広い女優だということがこの映画で分かってもらえると思います。

ー日本の女性誌などでは、「成熟した女性こそ美しい」というのがフランス人の考えであるという紹介をされることが多いです。しかし、この映画ではマリアが若さに執着し、“成熟”と向き合ってジタバタしていますね。

今日のフランス映画において、また社会全体としてもそうですが、若い女優でなければいけないとか、歳をとるのは恐ろしいといった感覚はなくなっているように思います。かといって、時間の経過という問題から免れることもできない。誰もが人生において、歳をとること、自分が変わっていくこと、それによって新たな自分を構築しなければいけないという問題に直面する。この映画では、それを問題提起しています。

アクトレス~女たちの舞台~:サブ1


Profile of Olivier Assayas
1955年パリ生まれ。70年代にカイエ・デュ・シネマ誌で映画批評を書き、後に映画作家に。『クリーン』(04)では元妻の香港スター、マギー・チャンにカンヌ映画祭の女優賞をもたらし、『夏時間の庭』(08)は日本でも興行的な成功を収めた。その他の作品に『イルマ・ヴェップ』(96)、東京でも撮影を行った『DEMONLOVER デーモンラヴァー』(02 )、『カルロス』(10)など。


『アクトレス ~女たちの舞台~』
原題:Sils Maria
脚本・監督 : オリヴィエ・アサイヤス 
出演:ジュリエット・ビノシュ 、クリステン・スチュワート 、クロエ・グレース・モレッツ 、ラース・アイディンガー 、ジョニー・フリン 、アンゲラ・ヴィンクラー 、ハンス・ツィシュラー 
配給:トランスフォーマー
2014年/フランス・スイス・ドイツ/124分 
(c) 2014 CG CINÉMA – PALLAS FILM – CAB PRODUCTIONS – VORTEX SUTRA – ARTE France Cinéma – ZDF/ARTE – ORANGE STUDIO – RTS RADIO TELEVISION SUISSE – SRG SSR

公式HP http://actress-movie.com/
10 月24日(土)より ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテほか全国順次公開 

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