マチュー・アマルリック、トークイベントで「映画にはリスクを!」と語る
9日(日)、東京国立近代美術館フィルムセンターにて開催されている「現代フランス映画の肖像」(1/7~2/27)のトークイベントに、フランスから来日した俳優で監督のマチュー・アマルリックがゲストとして登壇した。今回上映される、主演作『インタビュー』『運命のつくりかた』の撮影秘話や自身の映画観についてユーモラスに熱く語り、会場を埋め尽くしたファンを魅了した。
● グザヴィエ・ジャノリ監督の短篇『インタビュー』に出演したきっかけについて
マチュー・アマルリック(以下マチュー) 「(アルノー・)デプレシャン監督の『そして僕は恋をする』(96)に出演した直後に、ジャノリ監督から出演依頼の電話がありました。デプレシャン監督が映画俳優として育ててくれたようなところもあり、彼の作品に出るようになってから、出演オファーがくるようになりました。
撮影は全部で8日間、ロンドンで行われました。出演にあたっては、エヴァ・ガードナーの作品を見たり、資料を読んだりと大変な準備をしたわけですが、ステキな女優さんなので、やはりそれはステキな体験でしたね。それほどの準備が必要であった理由は、映画の前半分において、監督が私に即興で演技させることを望んだからです。
実話を元にした話ですが、コミカルで喜劇的な話だと思います。ハリウッドの伝説的な存在であったエヴァ・ガードナーに独占インタビューができる、と意気揚々と出かけて行ったジャーナリストの、ちょっとガッカリな結末を描いた話ですから(笑)」
※『インタビュー』はカンヌ国際映画祭の短篇部門でパルム・ドール受賞
● そういえば、クレルモン=フェラン国際短篇映画祭(仏)の審査員をやってガッカリされたとか?
マチュー 「(苦笑いしながら、)信念として、絶対に審査員はやらない主義だったんですが、生涯でたった一度引き受けてしまったのがそれです。なぜ引き受けたかという言うと、子供たちと映画を作るというプロジェクトを1年間やったのですが、その映画祭はその活動を援助してくれていたんです。それで、1回ぐらいは協力しなければと思い、引き受けたのですが…。
短篇映画というのは人生に例えると、いわば子供のような、まだ一番初めの段階です。そこで、リスクを冒さないというのはとても嘆かわしいことです。長篇であれば、お行儀の良い、つまらない大人というのは人間にも多くいるわけで耐えられないこともないのですが、短篇でそういったものは本当にイライラするわけです。
その映画祭で私が審査したときにセレクトされていた作品は、まだ若いのに大人のフリをするような映画だったのです」
● 2010年は個性的な作品が見直されてきてると感じたのですが…
マチュー「はぁ(ため息)、なんというか、“哲学的”な質問ですね(笑)。正直にいうと、私にはそうは思えません。今の状況でも、オリジナルの作品というよりは手練手管というか、技巧的な作品が多いと思います。観客を動員するという点において、いろいろな工夫が必要であるということなのでしょうが。
そう考えると、(ジャン=マリ、アルノー・)ラリュー兄弟の作品というのは、いったいどうやって観客を動員しているのか、と大変不思議ではあります」(会場爆笑)
● たしかに『運命のつくりかた』は、自主映画のような自由さを感じますね
マチュー「信じられないような結末に観客が連れていかれる、なんて変わった話なんだ、とびっくりしました。フランス人のあるカップルが別れて、数年後に女性はアメリカ人に、男性は山男になっているという、一瞬たりとも信じられる物語ではないのですが、やはりそこが映画の美しいところだと思います(笑)。
この映画は、ハリウッドの30年代のロマンティックコメディの再現なんです。男女が一度別れて、再会してまた恋に落ちるというものですが、お互いをもう一度魅了するという作業が必要です。
ボリスという男が映画を撮るということを止めた瞬間に、一人の男(山男)として生き始める。“生きること”と“撮ること”を同時に行うのは難しい、ということなのだと考えます。
ラリュー兄弟は親しい友人でもあるのですが、映画人として共感でき、信頼している監督です。彼らの監督作品は映画祭ではセレクトされていながら、日本での配給が一本もないという嘆かわしい状況ですので、ぜひ配給されるよう願っています」
● 日本映画や監督について
マチュー「あまりに仕事が忙しく、日本映画に限らず映画を観る時間がほとんどないのが現状です。やはり継続して観ていかないと、映画を撮ろうと思うきっかけになる作品が、黒澤(明)や溝口(健二)などの作品に常に戻ってしまう状態になるので、これからも映画を見続けなければならないと考えています」
● もし日本映画を撮るとしたら、どういったところが興味深いですか?
マチュー 「日本には仕事で6回来ています。一度だけ、ラリュー監督たちと2週間、日本のいろんな所を見ることができたのですが、それ以外は仕事で行く場所、出会う人たちに限られますので、日本についてはまだ紋切形のビジョンしかないと思っています。
私が監督した『オン・ツアー』(邦題:さすらいの女神たち)の中でも、バーレスクの踊り子たちと、私が演じた興行師の生活をまさに同じように描いていますが、出会うのはジャーナリストばかりで、場所はホテルの部屋なのです」
今や、フランスのみならず、ハリウッドの名だたる監督からも出演オファーが殺到し、『007 慰めの報酬』(08)にも出演。と、引っぱりダコのマチュー・アマルリックだが、『オン・ツアー』(仮題・初夏公開)ではカンヌ国際映画祭監督賞に輝き、演技のみならず演出においても高く評価されている。
取材・文 鈴木こより
▼「現代フランス映画の肖像」
会場:東京国立近代美術館フィルムセンター
期間:2011年1月7日(金)~2月27日(日)
1993年以降毎年開催されている「フランス映画祭」で上映された日本未配給54作品(短篇9本、長篇45本)が一挙上映される。
「インタビュー」+「運命のつくりかた」は2月8日12:30~、2月26日16:30~にも上映予定。
スケジュールなど詳細は、公式サイトをご確認ください。
2011年1月11日
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