【スウェーデン映画祭】ホテルセラピー

心の旅路、もしも明日が別の人生なら・・・

hotell

(C)Dan Lepp

集まったメンバーの悩みは、千差万別である。このまま孤独のまま死んでいくのかと、一人で生きていくことの虚しさを訴える女。過去のいじめがトラウマとなり、ひとりでバスに乗ることもできない女。マザコンの呪縛から逃れられず自立できない男。恵まれた自分の地位を維持するために、違った自分を演じ続けることにくたびれた男。共通するのは、皆孤独であるということだ。優しい夫がいるエリカでさえも、一人孤独に闘っているという印象がある。夫がいくら頑張ってみたところで、所詮は男、どうしても助けられないところがある。彼女には、そういう場面で助けてくれる母親がいなかった。必ずしも、存在しなかったというわけではない。スウェーデンでは、孫が出来ても祖父祖母が、喜んで手伝いに来るということ自体があまりないからだ。それが彼女をあそこまで追いこんでしまったのかもしれない。

エリカの例に漏れず彼らの悩みは、いかにもスウェーデン的であるのも興味深い。孤独のままこのまま死んでいくのかという悩みは、実に高齢者の40%が一人暮らしということを考えると、無理も無い。また、マザコンの呪縛から逃れられず自立できないリカルドにしても、スウェーデンの女性が、子供に対する愛着が弱く、その希薄さから大人になった時、精神のバランスを崩す人が多いというところから来ているように思える。そういう意味では、リカルドは、エリカと対の存在になっている。子供を愛したくても愛せない母親と、愛されなかった子供。二人がいつしか、親子を演じるのも、必然的なものと言える。彼らは悩みを抱えるという部分で、いつしか共同体意識が目覚め、“ごっこ”の成果もとても順調に進んでいく。ある意味彼らは、マヤ的な共同体社会を形成していたのかもしれない。しかし、ここはスウェーデンである。そこから一歩離れれば、その心地の良さはたちまち崩壊してしまう。所詮人は全く別の自分には成りきれない。そのことを自覚した時、初めてこのセラピーは成功への一歩へと近づいていくのである。映画を観終わる頃には、主人公のこれからに、心からのエールを送りたくなってしまうことだろう。

※2013 スウェーデン・アカデミー賞 助演女優賞


【スウェーデン映画祭 2015開催概要】
■開催期間:2015年9月19日(土)〜9月25日(金)
■場所:ユーロスペース(渋谷区円山町1−5)
■主催:スウェーデン映画祭実行委員会
■公式WEBサイト:http://sff-web.jp/

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