【スウェーデン映画祭】ホテルセラピー

心の旅路、もしも明日が別の人生なら・・・

hotell

(C)Dan Lepp

「マヤの人たちに学ぼう。彼らはどんなに辛いことがあってもすぐに立ち直り、元の生活に戻ることができる。彼らの強さを学ぼう」劇中、グループ・セラピーに集まった人たちの中に、こんなことを提案する人物が出てくる。大いなる勘違いである。小さな集落みんなが家族のような社会であるマヤの人たちと、個人主義の国スウェーデンでは、まるで事情が違う。マヤの人たちは、小さな空間でお互い助け合って生きているのに対し、スウェーデンの人たちは、独立心が強く、子供や老人に対する人々の態度も、一般的には冷淡と言われている。二つ目には、明日の飯の心配をしなければならないマヤの人たちには、立ち止まっている時間の余裕がないが、スウェーデンの人たちは、ゆっくり立ち止まっても、路頭に迷わないという、現実的な理由がある。それにも関らず、“苦痛に耐えることを学ぶ”という部分だけをことさら取りだし、実践したことがSMもどきの代物だったというのが滑稽で、この作品は、どこか人間喜劇の側面がある。例えグループ・セラピーに集まった人たちそれぞれの悩みが、当人にたちとってはとても深刻なものであってもだ。

本作の主人公エリカは出産に備え、赤ちゃんを迎える準備を着々と整え、ベビーベッドに主が来た時のことを想像しては、夢見心地になっている。しかし、出産をきっかけにその夢は、突然崩壊してしまう。予定よりも早く生まれてきた赤ちゃんは、出産時心肺停止状態にあったため、脳に障害が残ってしまったのだった。彼女はチューブに繋がれた我が子を見ることさえできず、精神のコントロールを失ってしまう。そこで参加したのが、先のグループ・セラピーである。この場から逃げ出し、違う自分になりたい。誰もが抱くであろう、その願望を果たすため思いついたのが、ホテルを転々としながら、参加した仲間たちそれぞれが、毎日自分とは違う人格を演じるということであった。それは、それぞれの願望を直接的に表しているがゆえ、人の精神世界を目で見せるかのような印象もあり、興味深い。

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