【スウェーデン映画祭】ストックホルム・ストーリー

うまく言葉を伝えられない人たちへ

ストックホルム・ストーリー

(C)Chamdin & Stohr Film

「1年に1回は大規模な停電がおきればいい。暗闇の中では真実が見えくるから」ひとつの言葉には光と闇がある。小説で、ひとつの言葉によって書かれていない言葉をも表現しようと試みる、作家の卵ヨハンは、誰からも認められない存在だ。彼を中心にしたストックホルムの孤独な男女5人の群像劇のキー・ワードは、“言葉”である。

コミュニケーション不全で、養子縁組に失敗したジェシカは、適当に検索した宛先に、「あなたは誰」という意味のない手紙を書く。車の中に置かれたその封筒を偶然発見した、宛主であるトマスは、送り主が誰かを探し求める。意味のない言葉が書かれたペーパーが1枚入っているだけということを知らずに。そのトマスから部屋を追い出されるアンナ。彼女は、トマスの上司(女性)と不倫中で、その部屋は彼女から与えられたものだった。トマスが邪魔するため、アンナは突然の仕打ちに対して、抗議の言葉さえ彼女に届けることができない。住む場所が無くなったアンナが助けを求めるダグラスは、横暴な父親からいつも叩かれ、その影響で吃音障害をもっている。彼は、活かす機会のない中国語を勉強しているのだが、その時だけは吃音が治る。周りに誰も理解できる人がいないから、スラスラ話せるのである。ヨハンが書いた原稿が誰にも読まれないことも含めて、5人の人物の共通点は、言葉が宙ぶらりんになっていることである。

彼らは皆、孤独である。スウェーデンといえば、強烈な個人主義の国というイメージがある。だからといって、人との繋がりがなくても平気というわけではない。個人の独立を尊重するということは、自分から人間関係を作らなければ何も生まれないことを意味し、それゆえにこの社会では、孤独な人はますます孤独地獄の穴に落ちてしまうのではなかろうか。本作では、それがストーカー行為に繋がっていく。ただ、彼らはコミュニケーションを完結させるために、宙ぶらりんになった言葉を求めていただけなのではあるが。

最も象徴的な人物は、ジェシカだ。「あなたは仕事が恋人ね」「そんな言葉はやめてちょうだい。仕事熱心と言って」ちゃらちゃらした言葉を嫌い、相手に正確な表現を求める彼女の言葉は、逆に同僚たちの会話に水を差し、彼女自身をコミュケーション不全に陥れている。そういう意味で彼女は、本を書くヨハンの主張を体現するかのような人物である。彼女は姪っ子と行った幼稚園の抽選で、「66.」番、大当たりを引くのだが、「99.」番の札を持った男に賞品を持っていかれてしまう。それが許せない彼女は、男の住所を調べ抗議に行くなどのストーカー行為に及ぶ。「99」逆さまにすれば「66」、区別するために打った小さな点の位置が違うだけ。言葉は、こんなちっぽけな違いでも大きな誤解を生んでしまう。持って行った男は、言葉を巧みに操るスタンダップ・コメディアンというのも、とても皮肉で象徴的である。

 光と闇”に関する持論に囚われた作家の卵ヨハンの実験は、いわば言葉に対する挑戦。それが証拠に彼は実験の前に、たくさんの言葉が書かれた紙を、苦労して書き綴った原稿を高所から街にばらまき捨てる。ひとつの言葉に存在する光と闇。闇は光の中では見えてこない。言葉でうまくコミュニケーションが取れない5人の男女。それに対するヨハンの実験は、言葉がコミュニケーションのすべてではないことを証明することになる。そのラストは爽やかであると同時に、映画の台詞に対する映像の勝利の瞬間にもなっている。



【スウェーデン映画祭 2015開催概要】
■開催期間:2015年9月19日(土)〜9月25日(金)
■場所:ユーロスペース(渋谷区円山町1−5)
■主催:スウェーデン映画祭実行委員会
■公式WEBサイト:http://sff-web.jp/

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