『カプチーノはお熱いうちに』フェルザン・オズペテク監督インタビュー

「自分はイタリアでゲイについてオープンに語った最初の監督だと思います」

dr.ozpetek日本でも大ヒットした『あしたのパスタはアルデンテ』のフェルザン・オズペテク監督の最新作がいよいよ公開される。イタリア・アカデミー賞で全11部門にノミネートされ、今年5月に開催されたイタリア映画祭2015でも好評だった話題作だ。“Allacciate le cintura(シートベルトをお締めください)”という原題も納得の波瀾万丈のドラマ。恋も仕事も手に入れたヒロインが遭遇する人生の乱気流とは・・・
オズペテク監督といえば、シリアスなテーマの中にもユーモアや人間味に溢れた会話劇だったり、個性的な人物たちをより魅力的にみせる演出が光るが、今作も苦しみを抱えたヒロインを取り巻く、刺激的で豊かな人間模様が見どころになっている。
イタリア映画祭の上映に合わせて来日した監督に、本作のアイデアの源から注目のイケメン俳優、さらには監督がこれまでこだわり続けてきたセクシャリティに関することまで、たっぷりとお話を伺った。

ーーまず、この映画を撮ろうと思ったきっかけについて教えてください

監督:この映画は乳がんによる悲劇を描いた映画ではなく希望を描いていると思いますし、がんではなく愛を描いた映画だと思います。この映画のアイデアは乳がんになった友達とのエピソードから生まれました。ある日、彼女を元気づけたくて夕食会を開いたのですが、その時に、聞いてはいけないかなと躊躇しつつも「まだ旦那さんと寝てるの?」と聞いてみました。そしたら彼女は「寝てるわ、時々彼が求めてくるのよ。男の人ってなんでも抱いて寝るのね」なんて言うから、思わず笑ってしまったんです。その直後、彼女と旦那さんが見つめ合ったのですが、その視線に強い愛情を感じました。彼らの愛情に感動したのがきっかけなんです。
それと、友人のファビオがエレナの検査に付き添って、彼の方が気分が悪くなって吐いてしまうシーンがありますが、あれは自分の実体験が元になっています(笑)。

ーー 俳優陣が魅力的でそれぞれの美しさに魅了されたのですが、アントニオ役のフランチェスコ・アルカさんは初めて見る顔でした。ヒロインのエレナとは見た目も内面も対照的で、生命力というか野性味に溢れた俳優さんですね

allancciatelecintura_sub監督:キャスティングにも参加したのですが、アントニオ役の彼は今作が映画デビューになります。イメージしていた役柄にぴったりでした。最初に4週間撮影をして、1ヶ月の休みを入れたのですが、その間に13キロ太ってもらいました。とても難しい役だったと思いますが、がんばって演じてくれました。この映画の後にジェームズ・ボンドの映画(『007 スペクター』2015年12月公開)と、アメリカ映画にも出ることが決まって良かったなと思っています。
最初の出会いのシーンでもわかりますが、ヒロインにとって彼はけっして理想的な男性ではなかったんです。考え方もかなり違います。見た目はとても良いけど何か弱点がある役にしようと思いました。人は恋をするとき、なぜ惚れてしまうのかわからないことが多いですが、相手の弱さを見た時に惹きつけられるということを今回描いてみたかったんです。

ーー 会話劇がとても面白くて、それも、とくに病室での会話が可笑しかったのですが、どのような思いであの場面を描き、あのシーンは生まれたのでしょうか?

監督: 病気というデリケートなテーマを扱っているので間違ったことは描きたくなかったんです。コンサルタントとして医者にも参加していただきました。実際に病気の方が見て「あり得ないよ」というところは無いようにしようと思いました。ただ、ユーモアが病気に立ち向かうときにいかに大切かということ、あと病気であることを隠さずに話すことが重要だということを描きたかったんです。重い病気でありながら、それを笑いとばすような友人がいるのですが、ポジティブに立ち向かうということと、周りの人から愛情を注がれるということがとても重要だと感じています。

ーー ベッドシーンよりも、触れるか触れないかというシーンの方がセクシーに思えたりしたのですが、監督にとってセクシーの定義とは?

監督:実はあのシーン、脚本では激しい絡みの描写があったんですが、むしろ、あのように急激に惹かれあった場合、そうはならないのではと思いました。惹かれ合う2匹の動物が互いの匂いを嗅ぎ合うような、探るような雰囲気を出してくれとリクエストしました(笑)。すごく官能的なシーンになったと思うんです。露出した胸元より少し隠れた胸の方がセクシーに感じるように、必ずしも全部出せばセクシーというわけではないと思います。

ーー監督の作品にはいつもゲイの登場人物がいますが、作品を追うごとに彼らのキャラクターがオープンになってきていると感じます。イタリア人はオープンだけど保守的というイメージをもっているのですが、実際のところはどうなんでしょうか?

監督:「なぜいつもゲイの人物を撮るのですか」と聞かれた時に、「僕がゲイの役を作っているのではなくて、他の監督が取り除いているんです」と答えます。皆さんの周りにも1人ぐらいいるでしょ? だから語らないのはおかしいと思います。『明日のパスタ~』では、自分の息子がゲイであることを認められない父親をコミカルに描いていますが、実際には未だタブーなところがあります。イタリアの政党は左派も右派もゲイの問題になるとタブーが出てきてしまう。個人的には14年連れ添っている恋人と生活を共にし、市民としての務めも果たしているのに(カップルとして法的に)何の権利も認められていません。

2008年にニューヨークのMoMAで私の作品の回顧展があり、オープニングに行ったのですが、自分の視点を大切に撮ってきたことを評価してくれてとても嬉しかったです。おそらくゲイというテーマに関して、自分はイタリアで最初にオープンに語った監督ではないかと思います(笑)。
そういう話を受けて一番賛同してくれるのが女性とかゲイを持つ家族なんです。『無邪気な妖精たち』(01/イタリア映画祭で上映)もゲイの男性が両手を挙げて喜んだかというとそうではなくて、女性がすごく支持してくれたんです。個人的には、男性よりも女性の方が感覚的なモノの見方が広いのではないかと思いますね。
今作も心をこめて作った映画なので、楽しんでいただければ嬉しいです。

『カプチーノはお熱いうちに』は、9月19日(土)より、シネスイッチ銀座ほか全国順次公開公開!


【フェルザン・オズペテク監督 Profile】
1959年イスタンブール生まれ。77年にイタリアへ移住。97年に監督デビュー作“Hamam”『私の愛したイスタンブール』(TV放送)がカンヌ国際映画祭監督週間正式出品となり高い評価を得て世界の多くの国々で公開される。“Le fate ignoranti”『無邪気な妖精たち』(01)はベルリン国際映画祭に正式出品され、フライアーノ映画祭で監督賞、ニューヨーク・レズ&ゲイ映画祭で最優秀作品賞を受賞。“La finestra di fronte”『向かいの窓』(03/DVD)ではイタリアのアカデミー賞に当たるダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞で11部門にノミネートされ、最優秀作品賞をはじめ4部門で受賞し国内外での評価を確立した。以降も“Cuore sacro”『聖なる心』(05)、“Satumo contro”『対角に土星』(07)、ヴェネツィア国際映画祭に正式出品された“Un giorno perfetto”(08)、“Mine Vaganti”『あしたのパスタはアルデンテ』(10)、“Magnifica presenza”『異人たちの棲む館』(12/DVD)等の作品をコンスタントに発表。コミュニケーションやセクシュアリティをモティーフ、テーマにしている。次回作は、著作“Rosso Istanbul”(赤いイスタンブール)の映画化。異国で成功した映画監督が故郷に帰るという自伝的物語である。


『カプチーノはお熱いうちに』ストーリー
allancciatelecintura_mainアドリア海を臨む、南イタリアの美しい街レッチェ。カフェで働くエレナは、雨の日のバス停でアントニオと出会う。アントニオは、偶然にも同僚シルヴィアの恋人だった。性格も生き方もまるで違うのに強く惹かれあった二人は、周囲に波乱を起こした末、その恋を成就させ結ばれる。
13年後、カフェの同僚で親友のゲイ、ファビオと独立して始めたカフェが成功し、アントニオとの間に二人の子供をもうけたエレナは、公私共に多忙な日々を送っていた。しかし、あんなに愛し合ったエレナとアントニオの夫婦関係には、綻びが生じ始めていた。そんな時、叔母に付き合ってがん検診を受けたエレナは、思いがけない結果を聞かされる…。

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