あの日のように抱きしめて

ホロコーストがもたらした罪の深さ、そして70年後の現在にも連なる複雑さ

「あの日のように抱きしめて」sub ネリーの歌う、愛のはかなさをうたったジャズの名曲「スピーク・ロウ」は哀感に満ちて、元に戻れないやるせなさに心打たれるのだが、私は収容所で生き残った人と、彼らを迎え入れる人との間に生じるぎこちない空気感が印象に残った。ネリーがジョニーに「人に収容所のことを訊かれたらどうするの?」と問うが、彼は「収容所のことなんて誰も聞きたがらない」と答える。ドイツ人はホロコーストから目を背けたいのだろう。また、ネリーが自分を逮捕直前まで匿った女性を訪問した際、女性はネリーを認識し「助けようがなかったの」と涙ながらに許しを乞う。ホロコーストはユダヤ人だけではなく、一般のドイツ人にも重荷を背負わせたことを窺わせる。

心ならずとはいえ、結果的にナチスに加担してしまったドイツ人を責めたり軽蔑したりするのは簡単だ。だが、そう一筋縄ではいかないところに、戦後の複雑さがある。それは70年前の出来事とどこかで断絶するのではなく、今を生きる我々にも連なっているはずだ。戦争そのものも恐ろしいが、その後にも目を向けることも大切だ。世間は戦後70年談話にあたって「おわび」「侵略」「歴史認識」を巡って騒がしいが、恐らく心に響かない言葉で発表されるよりも、本作を見た方がはるかに戦争や戦後、そして未来について、我々がどう向き合うかを考える一助となることだろう。

▼作品情報▼
監督・脚本:クリスティアン・ペッツォルト
共同脚本:ハルン・ファロッキ
出演:ニーナ・ホス、ロナルト・ツェアフェルト、ニーナ・クンツェンドルフ
原作:ユベール・モンティエ著「帰らざる肉体」
原題:Phoenix
2014年/ドイツ/シネマスコープ/デジタル5.1ch/98分
配給:アルバトロス・フィルム
公式サイト:http://www.anohi-movie.com/
(C)SCHRAMM FILM / BR / WDR / ARTE 2014
8月15日(土)、Bunkamuraル・シネマ他にて全国順次ロードショー

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トラックバック-1件

  1. ここなつ映画レビュー

    「あの日のように抱きしめて」

    「SPEAK LOW」…この曲だったんだ…。全編通して狂おしい程に響いてくるコントラバスの旋律の正体は。そこに全て繋がる、凄い、素晴らしいラスト。その余韻。見応えのある濃厚なサスペンスと哀しみの籠ったラブストーリー。第二次世界大戦終了直後、ユダヤ人収容所生活から永らえたものの、顔に修復のきかないほどの傷を負ったネリー(ニーナ・ホス)は、ユダヤ人活動家のレネ(ニーナ・クンツェンドルフ)に助けられ、ドイツに戻って顔の整形手術を受ける。元の自分の顔に戻して欲しかったネリーだったが、それは叶わず、別人のよう…

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