ラブ&マーシー 終わらないメロディー
話は変わるが、現代において男性に求められているのはマッチョな男らしさではなく、中性的な優しさだと筆者は常々感じている。特に今の若い男性は優しい人が多いと感じるし、ブライアンほどではなくとも生きづらさを感じやすいのではないかと思う。世の中の常識や価値観を押し付けようとする周囲のプレッシャーに打ち勝つのは、優しさだけでは難しい。筆者はこの映画を、ブライアンの苦悩の20年としてだけではなく、優しい男性がいかに周囲の圧力に苦しめられやすいか、利用されやすいか、精神のバランスを取る事が難しいかというテーマにも注目してほしいと感じた。
それにしても、ブライアンの才能には何度驚かされた事か。映画の中の様々な曲を聴いて、これをすべて彼が作り、アレンジし、プロデュースした事を考えれば、この人の能力は無限にあるのだと思ってしまう。なのに、天下を取って調子に乗るどころか精神を病んでしまう様な心の優しさを持っていた。そんな彼の個性を、ダノとキューザックが絶妙に表現してくれていたと思う。
映画の最後にブライアン本人が唄い、映画の題名にもなった「ラブ&マーシー」はブライアンの1988年復帰後初のソロアルバムの一曲目。久しぶりに聴いた彼のボーカルが往年の輝きを失ったしゃがれた声だった事に驚いたファンも当時は多かっただろうが、ファンにとっては大事な曲であり、映画の最後にこの曲を持ってこられたら、これまでのブライアンの苦悩を知っているファンは涙せずにはいられないだろう。
同じ時期に活躍したビートルズに比べ、日本ではどうもビーチ・ボーイズとブライアンへの評価が不当に低すぎると常々感じているが、この映画をたくさんの人に見てもらって、「ペット・サウンズ」や「スマイル」を聴いてもらって、ブライアンが天才である事を再度評価して欲しいと思う。ブライアンは復帰後は3~4年に一度のペースで新作を発表しており、今年に入って11作目のソロアルバムが発売されたばかり。20年のブランクを取り戻すかの様に創作意欲にあふれている。ブライアンの終わらないメロディーはこれからも続いていく。
▼作品情報▼
監督・製作:ビル・ポーラッド
出演:ジョン・キューザック、ポール・ダノ、エリザベス・バンクス、ポール・ジアマッティ
脚本:オーレン・ムーヴァーマン、マイケル・アラン・ラーナー
音楽:アッティカス・ロス
2015年/アメリカ/英語/カラー/ビスタ/デジタル5.1ch/122分
原題:LOVE & MERCY
配給:KADOKAWA
公式サイト:loveandmercy-movie.jp
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8/1(土)角川シネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国ロードショー