『共犯』張榮吉(チャン・ロンジー)監督インタビュー
雨の日、路地裏に転落して命を絶った1人の少女。偶然、そこに通りかかった3人の少年。孤独な心にたぐり寄せられるようにして出会った少年たちは、少女の死の真相を追い始めるーー。
台湾映画『共犯』は、少年少女の頃に経験する、トンネルの出口が見えなくなるような不安や孤独感を思い起こさせる作品。寂しい、痛い、生きづらい。いつも何かに苛立っている。少年たちが抱える葛藤を、インターネット上のコミュニケーションという時代の記号を登場させつつ、瑞々しい映像で描く。
監督を務めたのは、視覚障がいを持つピアニストを主演に迎えた『光にふれる』で、爽やかな感動を呼んだ陳榮吉(チャン・ロンジー)。台湾が生んだ新たな青春映画の送り手に話をうかがった。
—台湾映画でこのようなミステリーというジャンルは、これまで少なかったように思います。この作品を撮ったきっかけは?
ミステリー映画はあるとは思いますが、少年少女が主人公というのは確かになかったですね。私自身、この手のジャンルの作品が好きで、前作『光にふれる』を撮り終えた後にこの脚本を受け取り、とても面白いと思ったんです。暗いトーンで始まって、最後はキャラクターや物語に少しの希望と温かさが残る。これは新しいチャレンジができると思い、監督することを決めました。
—さらに具体的に、この物語のどこに惹かれたのでしょうか?
この映画のキャラクターたちに少年時代のちょっと生きづらい気持ちを呼び起こされました。あの頃はテストの成績も悪くて、自分は人より劣っているような気持ちがしていましたから(笑)。自分に自信が持てなくて、何ができるのかも分からない。この作品の少年少女たちからは、同じような思いと、何より寂しさが伝わってきました。
—ネット上の“言葉によるいじめ”も描かれますが、少年少女たちのSNS事情などについても取材されたのでしょうか?
クランク・イン前に大勢の高校生にインタビューし、200件以上のアンケート調査も行いました。現在の高校生の好きなことやコミュニケーションの方法を知るためで、その過程で彼らが抱えるストレスも知りました。こうした事前の調査でどんな現象が起きているかなども分かりましたし、もちろんスマートフォンやインターネットを使ったコミュニケーションは避けては通れないほど広まっているので、映画に取り入れなければと思いました。対面で人とコミュニケーションを取る機会が減ると、他者への理解や同情が薄くなります。それがSNS上での無責任な書き込みにつながるなど、ネガティブな情況を引き起こしていくのです。
—最近の台湾映画に登場する学校の先生は悪いイメージで描かれることが多い気がします。本作に登場するスクールカウンセラーも例外ではありませんが、なぜあのように冷淡な人物として描いたのでしょう?
他の映画では感じの良い先生もいますよ!(笑)『あの頃、君を追いかけた』の先生は良い人じゃなかったっけ?(筆者と立ち会いのスタッフ:「いえ、あの先生もちょっと…」)映画でそう描かれるからといって、台湾の先生は感じが悪いということではありませんが、私が本作でスクールカウンセラーをあのようなキャラにしたのは、少年たちが直面する問題の原因は、当事者の3人だけではなく、まわりのあらゆる要因や周囲の人々によっても形作られるからです。生徒が悪いことをしたら、大人たちは生徒を責めます。でも、その背後を調べてみると、親の関心の欠如や、まわりの大人の早い段階での対処が欠けていたことが分かります。彼らもまた、問題を蔓延させた“共犯”なのです。
そして、主任教員の男性もまたスクールカウンセラーと似たキャラクターですが、彼にはモデルがいて、私の妻がかかった産婦人科の先生です。資料を見ながら一方的に症状を読み上げるだけの人でした。
—台湾には10代のプロの俳優が少ないと思いますが、キャストはどのように選んだのでしょう?
そうですね、10代の俳優はとても少ないです。今回は演劇科の生徒を含め、学校をまわって選びました。半年以上の時間をかけ、最後に残ったのがメインキャストの男の子3人と女の子3人です。オーディションの過程では、2ヵ月以上にわたって20名以上の俳優にレッスンをお願いし、その結果残ったのが彼らなんです。
—台湾で10代の子が俳優としてキャリアを始めるには、どのようなルートが考えられるのでしょうか?
台湾では10代の俳優をキャスティングする際の選択肢は多くありません。おそらく、あるテレビドラマや映画で見出された少年少女がいて、そのスタッフが以降の作品でもチャンスを与えるとか、その芝居を見た他の映画関係者がたまたまキャスティングの候補に加えるということが考えられるでしょうね。また、俳優の養成機関もありますが、レベルはピンキリですし、授業と実践で必要な芝居は違います。
新人の芝居は熟れてはいませんが、そのなかから驚くべき表現を引き出せることもあります。もちろん演出は大変なことも多いですが、時間をかけて彼らに理解させるようにします。
—冒頭から死体として登場する女生徒を演じた姚愛甯(ヤオ・アイニン)が雰囲気のある容貌で、とても印象的でした。
彼女は最後にキャスティングしました。なぜなら、あの夏微喬(シャー・ウェイチャオ)という役はちょっと他とは違う女の子でなければいけなかったので。映画の第一幕から路地裏に死体として横たわるだけで、あの男子生徒たちを引きつけるのですから、ルックスだけではなく、他の子にはない個性があることも必要でした。ヤオ・アイニン自身は広告モデルをしていた子で、演技はこの映画が初挑戦です。
—メインキャスト6名のうち4名が長編映画初出演の新人ということですが、前作の『光にふれる』でも視覚障がい者のピアニスト・黄裕翔(ホァン・ユィシャン)さんを主演に迎えて撮っておられました。新人、もしくは素人を演出するコツは何でしょう?
彼らを理解することでしょうか。理解しようとして初めて、それぞれの個性や、若いなりにも彼らが経験してきたことを知ることができる。そうすることで彼らの感情を引き出し、演出や表現についても理解させることができるのです。現場では、辛い場面では俳優たちと距離を取り、楽しい場面では賑やかにしていました。新人俳優たちの感情をリアルに演技に反映させるには、現場の状況を整えることも必要です。涙を流すシーンが上手くいかないときは、厳しく接して彼らの闘志を煽ることもしましたね。
ーこの作品は、台湾に限らず、どの国や地域でも理解してもらえる映画だと思います。近年台湾の映画市場は盛り上がりを見せていますが、それでも限られています。敢えて地域性を感じさせない作品を撮って、海外のマーケットも狙いたいという意識はありますか?
当然、海外に売れることも期待していますし、国・地域にかかわらず自分の映画をたくさんの人に観てもらいたいと思っています。本作みたいに日本でも観ていただけるように。ですから、作品の中にそれほど地域性の濃厚なものは入れていません。私は、「人」という状態になってしまえば、文化の違いこそあれ、持つ感情は誰しも同じだと思っています。
Profile of Chang Jung-Chi
台北生まれ。国立台湾芸術大学大学院応用媒体芸術研究所卒業。大学時代から映像製作に携わる。2006年、楊力州と共同監督した初の長編記録映画『ぼくのフットボールの夏』(07年アジア海洋映画祭IN幕張で上映)で台湾金馬奨最優秀記録映画賞を受賞。08年視覚障がいを持つピアニストを描いた短編映画『天黒』で、金馬奨最優秀短編映画賞を受賞。12年には同作を長編化した『光にふれる』で長編劇映画監督デビューし、高い評価を獲得。米アカデミー賞外国語映画賞台湾代表に選出された。
▼作品情報▼
『共犯』
原題:共犯
監督:張榮吉(チャン・ロンジー)
原作・脚本:夏佩爾(シア・ペア)、烏奴奴(ウーヌーヌー)
主題歌:flumpool 「孤獨」(A-Sketch)
出演:巫建和(ウー・チエンホー)、鄭開元(チェン・カイユアン)、鄧育凱(トン・ユィカイ)、姚愛甯(ヤオ・アイニン)他
提供:マクザム 配給:ザジフィルムズ/マクザム
後援:台北駐日経済文化代表処
2014 年/台湾/89 分
Double Edge Entertainment (c) 2014 All rights reserved.
7月25日(土)より、新宿武蔵野館ほか全国順次公開
HP:www.u-picc.com/kyouhan/