【SKIP CITY IDCF】 鉄の子
【オープニング上映作品】
宇都宮線の銀色にオレンジと緑のラインが入った車両が、荒川橋梁を渡っていく。昔から変わらぬ川の流れの遠くに見えるのは、近代的なタワー・マンション。ここを越えるとそこはもう、埼玉県川口市。川口駅前の繁華街は、東京の街のように繁栄している。冒頭、まるで昭和の風景のような、鋳物工場のキューポラを見つめる男の子から始まった本作は、改めて川口市の現在(いま)を写し取る。実際SKIPシティへの道のり、バスの車窓を流れる川口市内の風景に、羽目板張りの古い家、昔ながらの商店がちらりと見えたりする。ここは現代風な街並みの中に、ぽっかりと穴でも開けたかのように昭和の風景が混ざっているところだという感じがした。
両親が再婚したため、陸太郎と同学年の真理子は一緒に住むことになるのだが、この家自体も昭和の匂いが濃厚に立ちこめている。ダイニング・キッチンというよりは、台所。玄関から続く薄暗い廊下。お茶の間といった雰囲気の居間。今どき引っ越しで、軽トラを自分で運転して家財道具を運び入れるというのも珍しいし、子供たちが、ゲーム機を持っていないということもあるかもしれないが、一瞬これは昭和の時代の話かと思う。もちろん両親は携帯電話を使っているし、一旦街に出れば、現在の川口市の風景が写しだされるので、それは錯覚に過ぎない。
それにしても、二つの家族がひとつになるというのは、想像以上に大変なことである。子供たちは、学校ではそのことをからかわれるし、家に帰っても、狭い部屋の中で気まずい思いをしなくてはならない。そこで、二人は秘密裏に「リコンドウメイ」を作って、両親を別れさせようと計画する。もちろん、それは陰惨なものではなくて、子供らしいいたずら程度のものであること、またその計画を練るのも、昭和っぽく神社だったりするのが微笑ましい。
福山功起監督自身の体験を元にしているだけあって、最初は照れくさくて、女の子になかなかしゃべりかけられなかった陸太郎の、男の子らしい気持ちと、彼に較べるとおませで積極的な真理子の、女の子らしい気持ちがとてもよく出ている。秘密を共有することによって、最初は反対の方ばかり向いていた子供たちの距離が、一気に近づいていくのもよくわかる。あくまでも子供の視点を貫き、大人の行動が、観客が観てその裏を想像できる程度に留められているのがいい。大人の勝手な都合で、悲しい思いをするのはいつも子供だが、この作品に『鉄の子』というタイトルが付けられているとおり、子供は固まらないドロドロの鉄であり、叩かれて強くなっていくものであることを実感できる。
子供たちを遠くから支えているのが、スギちゃん扮する鋳物工場のおじさんである。陸太郎の亡くなったお父さんの同僚だったという。今日は元気がないかな、今日は何かいいことがあったのかなというふうに、子供の行動を細かいところまでよく見ている。それ故にいつもふざけているようでいながら、的確なアドバイスをちゃんとしているところがいい。実際、“昭和の時代”には、こうしたおじさんが、どこにでもいたような気がする…と、ここまで書いてふと、そうではないことに気が付く。現在の川口市には、まだまだこういう人情が残っているのではないかと。銭湯で湯あがりに、陸太郎とおじさんがビン入りのコーヒー牛乳を一気飲みしたのは、現在の風景だし、鋳物工場から流れるカンカンカンッという音を耳にしながら通学するのも、確かに現在の風景である。この街に感じた私の最初のイメージは、決して間違いではなく、ビルの谷間に今でもそうした風景、人情を残しているのが、この街なのではないか。決してハッピーとは言えないこの映画を観終わって、なお温かいものが残る理由はそこにあるのではないかと思う。これは紛れもなく、“キューポラのある街”川口市だからこその作品なのである。
▼『鉄の子』作品情報▼
監督:福山功起
脚本:守山カオリ、福山功起
撮影:谷口和寛
出演:田畑智子、裵ジョンミョン、佐藤大志、舞優、スギちゃん
製作:埼玉県/SKIPシティ 彩の国ビジュアルプラザ
制作プロダクション:アルタミラピチャーズ
2015年/日本/74分
©2015 埼玉県/SKIPシティ 彩の国ビジュアルプラザ
【SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2015】
●会期:2015年7月18日(土)~26日(日)
●会場:SKIPシティ 映像ホール/多目的ホールほか(埼玉県川口市)
こうのすシネマ/彩の国さいたま芸術劇場(※7月19日、20日のみ)
●主催:埼玉県、川口市、SKIPシティ国際映画祭実行委員会、特定非営利活動法人さいたま映像ボランティアの会
●公式サイト:http://www.skipcity-dcf.jp