【SKIP CITY IDCF】サンタ・クロース

聖夜のパリの空の下、少年はサンタ・クロースと冒険をした。

サンタ・クロース【SKIP CITY IDCF2015】長編コンペティション部門

母子家庭の6歳の少年、アントワーヌは、サンタ・クロースとソリに乗ることを夢見ている。しかし、クリスマス・イブの夜、彼の部屋のバルコニーに落ちてきたのは、サンタ・クロースの恰好をした泥棒だった。泥棒稼業の妨げになるからと、なんとか少年を追い払おうとするサンタ・クロースだったが、彼を本物と思い込み、ソリを見るまでは帰らないと、少年はどこまでも後ろから付いてくる。そして二人が駅で警官に職務質問を受けた時、少年が彼のことをダディと言ったあたりから、次第に本物の父子のような信頼関係が生まれてくるのだった。

二人が自転車に乗って走り抜ける、クリスマスのパリ。ヴァンドーム広場を抜けてコンコルド広場に。ライトアップされた大観覧車を仰ぎ見て、そこから凱旋門まで続くシャンゼリゼ大通りの電飾の林を走り抜ける。パリのデパートのショーウィンドウ、パサージュ(ショッピング・モール)のクリスマスツリーのデコレーション。光が溢れる聖夜のパリの美しいこと。それを存分に堪能できる贅沢。

彼の名前は、最後まで明かされない。サンタ・クロースのままである。細かい事情は語られていないが、借金を返すために囚われの身となり、聖夜に泥棒することで片を付けることになった、ということだろうか。そんな事情もあり、結局二人は、一晩中冒険を共にすることとなる。パリのアパルトメントの屋根から屋根へ。部屋には温かい灯りが灯り、遠くを見れば、エッフェル搭が星の瞬くごとくきらめき、パリの街を見守っている。パリの最高の贅沢とは、屋根の上で夜景を一人占めにすることだと思う。

最上階にはリッチな人々が住んでいる。家が大きいから、居間に泥棒が入り込んでも容易には気が付かない。大きなクリスマスツリーの周りには、たくさんのプレゼント。高級な毛皮のコートに、金銀ダイヤモンドのアクセサリー。たくさんのおもちゃ。あたかもサンタ・クロースの倉庫に紛れたかのよう。探検ごっこでもしているかのようにはしゃぐアントワーヌ少年には、盗みの手伝いをしているという意識はあまりない。それが証拠に、衝動的に持ち出してしまったおもちゃのことを、いけないことをしてしまったと、いつまでも悔やんでいる。

一方、泥棒たちの仲間が住むトレーラーハウスの群れ。ここは、サンタ・クロースたちの宿泊所というには、あまりに汚くむごい。近所の安アパートの姿は見えるが、パリの夜景が存在しない暗い細い通路には、焚火と酒の匂いと煙草の煙。おそらく外国人も多数紛れこんでいるのだろう。ここには酔っぱらいが存在するのみで、クリスマスは存在しない。

結局、アントワーヌ少年は一晩のうちに、パリの上流から最下層までを見て歩いたことになる。小さなベランダから見た狭い世界から、広い世界へ。この冒険は、アントワーヌ少年が語る、ゼブラの親子の物語と呼応している。サバンナに出掛けたゼブラの子供は、彼自身に他ならない。彼が都会のサバンナで学んだのは、社会である。元来、母親は我が子に愛を教え、父親は社会を教えるもの。サンタ・クロースがプレゼントしたのは、アントワーヌ少年に足りなかった父親からの愛情である。それによって、彼は幼年期から少年期へと初めて成長する。この作品のフランス語タイトルは、『Le père Noël』ル・ペール・ノエル。フランスでは、サンタ・クロースのことをこう呼ぶ。クリスマスのおじいさん。もっともペールの本来の意味は父親なので、このタイトルはサンタだけでなく、父親という意味を含んでいるとも言える。クリスマスのお父さん。父親のいない6歳の少年アントワーヌが本当に求めていたものは、サンタ・クロースというよりは、父親だったのである。



▼作品情報▼
原題:Santa Claus
監督:アレクサンドル・コフレ
脚本:アレクサンドル・コフレ
出演:タハール・ラヒム、ビクトル・カバル、アネリーズ・エスム
2014年/フランス/81分
上映日時:7.20(月・祝)14:00~、7.24(金)11:00~
©QUAD FILMS 



poster_visual_2015【SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2015】
●会期:2015年7月18日(土)~26日(日)
●会場:SKIPシティ 映像ホール/多目的ホールほか(埼玉県川口市)
こうのすシネマ/彩の国さいたま芸術劇場(※7月19日、20日のみ)
●主催:埼玉県、川口市、SKIPシティ国際映画祭実行委員会、特定非営利活動法人さいたま映像ボランティアの会
●公式サイト:http://www.skipcity-dcf.jp

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