【SKIP CITY IDCF】ガーディ

小さな街で起こった善意と奇跡、平和への祈り

ガーディ【SKIP CITY IDCF2015】長編コンペティション部門

かつてチャールズ・チャップリンが、屋根裏部屋から、道を行き交う人たちを観察して多くの物語を作ったように、この映画の主人公レバは少年時代、アパートの窓から街の人たちを観察して、物語を記録していた。小さな街では、色々な問題を抱えた人たちが、十年一日のごとくトラブルを繰り返している。人々はお互いを詮索しあっては、噂話をしたり、他人を非難してみたり。人前に出るとどもってしまい、いじめられっ子だったレバは、観察し文章を書くことと、音楽の先生に認められピアノが上達することによって次第に自信をつけ、十数年後音楽教師となってこの街に戻ってくる。「自分は成長したのに、街の人たちはまるで成長していない」という感慨を持って。

幸せな結婚をして、娘が二人生まれ順風満帆だったレバだったが、息子ガーディがダウン症だったことで、危機に立たされる。ガーディは、かつてレバが座っていた窓辺で、昼夜なく、甲高い言葉にならない声で歌うので、近所の人たちにとって騒音となってしまったのだ。やがて街の人々の中には、彼のことを悪魔だと言う人も現れ始め、彼を追いだそうという署名までが集められた。困ったレバは、息子は村人の悪行を戒める天使だと嘘をつくのだが、その時少年時代に付けていたノートが役立ったのである。確かにガーディは、自分や家族しか知らないはずのことまで、ちゃんと見通しているということで。

やがて信者が増え始め、レバのアパートの前にはいつしか祭壇まで設けられる。悪魔が天使になってしまうという皮肉。人は自分がわからないものに対しては恐怖を持つ。けれども恐怖を裏返せば畏敬に変わるのである。

しかし、ここで本当に不思議なことが起こる。あんなにいがみ合っていた街の人たちの間に、優しさという灯が灯っていくのである。奇跡もあちらこちらで起こるようになる。もちろんガーディが本当に天使というわけではない。街の人たちがどの程度まで、彼を天使と信じていたかまではわからない。ガーディが天使になったカラクリを知っても、なお協力者になろうという人もいるくらいだから。でも誰もがそれを信じたかったことは確かである。重要なのは信じること。それは、人が自分の愚かさ、弱さを認めることでもある。すると人は優しくなれるのだ。誰しも人生において、自分の役割があることを知ること。奇跡はそんなところに付いてくる。いつもひとりぼっちだったレバが、ピアノの先生になったことだって、ある意味奇跡なのである。彼の成長の過程と、街の人たちの成長の過程は、実はよく似ている。

この作品は、アラビア語を話すキリスト教徒の物語。元々レバノンは「生きた宗教の博物館」と称されるところ。今ISISに対して一番脅威を感じているのが、実はこのレバノンのキリスト教徒ではないかと思う。現に隣国シリアでは、反乱軍 (元々はアメリカが応援していた) によって、多くのキリスト教徒が追いだされ、人質として捕えられている。ところが、そのような危機感を感じさせるところが、この作品には微塵もない。このように善意に溢れた作品が作られたこと自体が、驚きである。けれども、むしろこの善意の物語の中に、平和への祈りが込められているのではないかと思う。知らないことを悪魔とするのではなく、受け入れること。何かを信じ謙虚になること。それこそが平和への第一歩であると。



▼作品情報▼
原題:Ghadi
監督:アミン・ドーラ
出演:ジョージ・カバシ、ララ・レイン、エマニュエル・カイラーラ
2014年/レバノン、カタール/100分
上映日時:7.19(日)14:00~、 7.22(水)17:30~
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poster_visual_2015【SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2015】
●会期:2015年7月18日(土)~26日(日)
●会場:SKIPシティ 映像ホール/多目的ホールほか(埼玉県川口市)
こうのすシネマ/彩の国さいたま芸術劇場(※7月19日、20日のみ)
●主催:埼玉県、川口市、SKIPシティ国際映画祭実行委員会、特定非営利活動法人さいたま映像ボランティアの会
●公式サイト:http://www.skipcity-dcf.jp

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