【SKIP CITY IDCF】スウィング!
【SKIP CITY IDCF2015】長編コンペティション部門
オープニング・タイトルから驚かされる。えっ、これがハンガリー映画!?と。60年代風のアニメーション・タイトルにかぶさる音楽は、アンドリュー・シスターズの歌う♪シング・シング・シング。まるで昔のハリウッド映画のようだ。
なぜこのタイトルか。人生に行き詰った、世代も全く異なる3人の女性が作るジャズ・ボーカル・グループのコンセプトが、なんとアンドリュー・シスターズなのである。彼女たちは30年代から60年代にかけて活躍した3人姉妹の歌手で、第二次大戦中には、慰問にも積極的に出掛け人気を博し、凸凹シリーズやビング・クロスビー&ボブ・ホープ『南米珍道中』などの映画にも出演した。戦時中は枢軸国としてドイツと行動を共にし、戦後はソ連の衛星国となり、アメリカが常に敵国だったハンガリーで、果たしてアンドリュー・シスターズは、どれほど知られた存在だったのか。そう考えると、このタイトル・ロールは余計に意外性があって、面白い。しかも劇中では彼女たちの代表的な曲である、♪チャタヌーガ・チュー・チュー、ラムアンドコカコーラ、ティコティコ、素敵なあなた (Bei Mir Bist Du Schoen)が、メドレーで歌われる凝りようだ。
3人の女性が主人公。付き合っていた男が妻子持ちであることがわかり、男の子といっしょに逃げ出してきた30代の母ケイト。夫の誕生日の日、あろうことか浮気現場を目撃してしまった50代の主婦リタ。歌手になる夢を捨て切れず、オーディションに行くも気後れし、順番がくると逃げ出してしまう20代のアンゲラ。彼女たちの共通点は、歌がうまいことと、人生の壁にぶつかってしまっていること。それが出会い、ジャズ・ボーカル・グループを作るきっかけとなったのは、音楽の生演奏が売りのレストランでの出来事だ。あろうことか、その日の老女性ヴォーカリスト、エミリーは体調が悪く途中で咳きこんでしまうのだが、それを見た3人がそれぞれの事情からその後を継いで歌い出したところ、美しいハーモニーが生まれたのである。3人で組めば、有名になれるかもしれない。苦境を乗り越えられるかもしれない。何かが欠けている3人が集まって、その穴が埋められ完璧なものになるということが、歌によって表現されるのは、典型的なミュージカルの手法であると言える。
アンドリュー・シスターズ以外の選曲も大変凝っている。時にその歌が思わぬ誤解を生んだり、それぞれの気持ちを代弁していたりするのだ。中でもひとつ挙げておきたいのは、彼女たちが歌う会場に、リタの夫が浮気相手と現れる場面。ここで彼女が歌うナンバーは、ペギー・リーが歌ったことでも有名な♪アイム・ア・ウーマン。「私は一度に44足もの靴下を洗ってそれを一列に干せちゃえるのよ、わかる、私って24枚ものシャツに糊をつけてアイロンがけだってしちゃえるのよ なぜって、私は女だから…」これほどまでに尽くしてきて、なぜ今裏切られなくてはならないのかと、彼女の夫への恨みが歌によって爆発する瞬間は、なかなか見応えがある。他にもエタ・ジェイムズの代表曲で、最近ではビヨンセがカヴァーした♪At Lastや、ジャズのスタンダード曲♪Bye Bye Blackbirdなど、とても効果的な使い方がされていて、興味は尽きない。しかしながら、この作品が、これだけアメリカのミュージカル文化に浸かりながらも、それと違うのは、彼女たちのゴール地点が必ずしも名声とは限らないところである。3人のハーモニーが例え一旦は壊れたとしても、その先には、それぞれの身の丈に合った再生が待っている。それが心地よい。
▼作品情報▼
監督:チャバ・ファゼカシュ
出演:エステル・オーノディ、 エステル・チャーカーニ
フランシシュカ・テレーチク、マリ・テレーチク
ヤーノシュ・クルカ、ベーラ・メーサーロシュ
2014年/ハンガリー/117分
上映日時:7.21(火)11:00~、7.25(土)14:00~
(C)Attila Takács
【SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2015】
●会期:2015年7月18日(土)~26日(日)
●会場:SKIPシティ 映像ホール/多目的ホールほか(埼玉県川口市)
こうのすシネマ/彩の国さいたま芸術劇場(※7月19日、20日のみ)
●主催:埼玉県、川口市、SKIPシティ国際映画祭実行委員会、特定非営利活動法人さいたま映像ボランティアの会
●公式サイト:http://www.skipcity-dcf.jp
2015年8月6日
[…] レビューはこちらのサイトのが好きでした。最後に書いてある、この部分にとても共感。 http://eigato.com/?p=22595 […]