【フランス映画祭】ヴェルヌイユ家の結婚狂騒曲

フランス社会の懐

verneuil ヴェルヌイユ家の4姉妹のうち3姉妹が夫として選んだのは、ユダヤ人、アラブ人、中国人だった。ヴェルヌイユ家の父親は、ロワール地方で公証人の仕事をし、広い屋敷に住み、敬虔なカトリック教徒であり、おまけにドゴール主義を吹聴している。要は、愛国者であり保守的な人なのである。こんな家にこれだけバラエティ豊かな民族の人たちが入ってきたのだから、彼自身困惑するのは当たり前である。それでも彼なりに精いっぱい気を遣っているつもりなのだが、ひとつひとつの発言に、夫たちが噛みついてくる。差別主義者だと。自由、平等、博愛の精神こそフランスの美徳と信じている彼にとっては、それは屈辱的な言葉であり、そんな彼がおろおろすればするほど、かえって差別主義的な発言をしてしまうのが、とても滑稽だ。

そんな偽善者ぶりを発揮していた彼が、末娘のボーイフレンドがカトリック教徒と聞いて安堵していたのも束の間、実は…というところで、それ以上のショックを受ける。しかし、そのドタバタ劇の末のその着地点は大変心地よく、そのあたりの感覚がフランス人に受けたのだろう。本作が、フランスで観客動員1200万人を突破する大ヒットとなったというのも頷ける。

しかし、フランス映画祭の作品紹介には「多様な人種が混在するフランス社会の懐の深さを大いに感じさせる作品」とあったのだが本当にそうだろうか。

 ヴェルヌイユ家の父親と夫たちが理解し合うのは、彼らが揃ってフランス国歌を合唱したことによるものだ。確かにそれはフランス国民なら誰だって嬉しいことには違いない。ただ、ドゴール主義の父親にとっては、それは国歌以上の意味があるような気がしてならない。すなわちフランスの精神たる自由、平等、博愛を守ってこそ、民族の違いを超えて理解できるという立場である。そこからいくと、イスラム教徒の女子学生が、ライシテ(政教分離)に反して、ヒジャブ(スカーフ)をしてくることは、あくまでも受け入れられないのである。3人の夫たちの素生をとってみても、商売の下手なユダヤ人、近代法の信望者であるイスラムの弁護士、積極的にフランス文化を学ぶ協調性を持った中国人といったように、それぞれ、一般的なイメージの裏返しになっている。まるでブラックジョークである。さらに言えば、彼らは高等教育を受けており、フランス語は堪能で、決して貧しくはない人たちなのだ。逆にそれが、フランス社会の限界を何より示しているような気がしてならないのである。

実際、昨年EUの欧州委員会が提案した、不法移民を受け入れる「クオータ(ノルマ)」に真っ先に反対したのがフランスと英国である。また今年6月末、EU首脳会議が開かれるのを前に、イタリアとフランスの関係が険悪化しているのは、20万人を超えるイタリアに上陸した移民が陸路フランスに入ろうとするのを、仏当局が摘発してはイタリアに戻したことによるものだ。また国内でも、巧妙に差別が図られ貧富の差が拡大するに従い、行き場のない移民の子供たちが街の隅に追いやられ、それが「シャルリ・エブド襲撃事件」を引き起こしたひとつの要因となったのではなかったか。すなわち、私たちに同化できる、良き隣人であれば、フランス国民としての権利を充分に受けられますよ。それから外れた人は、恩恵が受けられないのは当然ですよ。本作にはそうした現在のフランスの苦悩が、逆に隠されているような気がしてならないのである。たかがコメディではあるのだけれど。



▼作品情報▼
原題:Qu’est-ce qu’on a fait au bon Dieu ?
監督:フィリップ・ドゥ・ショーヴロン
出演:クリスチャン・クラヴィエ、シャンタル・ロビー
2013年/フランス/97分/DCP/ビスタ/ドルビーSR
※受賞歴  2015年 リュミエール賞 脚本賞受賞
© 2013 LES FILMS DU 24 – TF1 DROITS AUDIOVISUELS – TF1 FILMS PRODUCTION


【フランス映画祭2015】
日程:6月26日(金)〜 29日(月)
場所:有楽町朝日ホール、TOHOシネマズ 日劇(東京会場)
団長:エマニュエル・ドゥヴォス
*フランス映画祭2015は、プログラムの一部が、大阪、京都、福岡で6月27日(土)から7月10日(金)まで、巡回上映します。
公式サイト:http://unifrance.jp/festival/2015/
Twitter:@UnifranceTokyo
Facebook::https://www.facebook.com/unifrance.tokyo
主催:ユニフランス・フィルムズ
共催:朝日新聞社
助成: 在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本
後援:フランス文化・コミュニケーション省-CNC
協賛:ルノー/ラコステ
運営:ユニフランス・フィルムズ/東京フィルメックス

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