チャップリンからの贈りもの
2010年カンヌ国際映画祭グランプリを受賞した『神々と男たち』グザヴィエ・ボーヴォワ監督の最新作
喜劇王チャップリンの遺体を誘拐?! 1978年、全世界が驚愕したニュースの正体は、マヌケな二人組のドジな犯行劇だった。信じられないこの実話が、チャップリン遺族の全面協力を得て映画化! 晩年を過ごした美しい邸宅や墓地をロケ地に、チャップリンの息子や孫娘も特別出演。『黄金狂時代』『街の灯』『ライムライト』など往年の名画名曲名シーンを散りばめ、とことんツイていない人間たちのコミカルな大騒動を、巨匠ミシェル・ルグランの美しい音楽に乗せて描いた本作は、フレンチテイストが香る原題のチャップリン映画のよう。家族のために企てたまさかの犯行、天国のチャップリンに救いを求めた間ぬけな誘拐犯たちが、最後に手にした人生の宝物とは。

【ストーリー】
スイス・レマン湖畔。お調子者のエディの親友オスマンは、娘がまだ小さく妻が入院中。医療費が払えなくなるほど貧しい生活を送っていた。そんな時テレビから“喜劇王チャップリン死亡”という衝撃のニュースが。エディは埋葬されたチャップリンの柩を盗み身代金で生活を立て直そうと、弱気のオスマンを巻き込み決死の犯行へ。ところが詰めの甘い計画は次々にボロを出し、ツキのなさにも見舞われて崩壊寸前。あきらめかけた時、追詰められたオスマンが最後の賭けに出た。人生どん底の二人に救いの手は差し伸べられるのか。
7月18日(土)より YEBISU GARDEN CINEMA 他全国順次公開
【クロスレビュー】
心がじんわり温まる粋なエピソードに思わず涙。さらに、遊び心に溢れた名画へのオマージュと、ミシェル・ルグランの音楽が夢見心地を加速させる。あの懐かしのメロディーに心が躍る。
遺体を盗んだ2人組はとんでもなくマヌケではあるけれど、その動機はただただ愛する人を救うため。その呆れるほどの愛すべき無謀さと困り果てた表情が、どことなく『街の灯』のチャップリンを思わせるから感慨深い。弱者の目線で作品を撮り続けたチャップリンだが、彼の家族や秘書もまた、その精神を大切に受け継いでいるという物語に心震えた。彼の功績と偉大さに改めて気づかされた作品。
(鈴木こより/★★★★☆)
晩年にチャップリンが愛したレマン湖、美しいチャップリン邸、ウーナ夫人と散歩した庭、その真ん中にある桜の木、そして彼が眠る墓地。この景色を使って映画を作ったことに拍手を送りたい。病気の妻を助けたい。娘を学校に行かせたい。友達のために何かをしたい。作品のテーマもチャップリン映画の精神をちゃんと受け継いで、そこにミシェル・ルグランの新曲と、彼が編曲したチャップリンのテリーのテーマが流れるその贅沢。亡くなる直前まで、この地でサーカスを楽しんだチャップリン。物語の中にこれも絶妙に取り入れて、しかもその団長には、フェリーニ映画のサーカス団長マルチェロにそっくりなキアラ・マストロヤンニを配役するという、その心憎さ。確かにここでチャップリンは生きていた。そして亡くなってからも、事件でマスコミを賑わしただけでなく、映画は生き続けている。そしてまた21世紀の今、チャップリンの孫のような映画が作られたこと。彼は天国で、どんな思いでこれを眺めているだろうか。
(藤澤貞彦/★★★★☆)
監督:グザヴィエ・ボーヴォワ『神々と男たち』
音楽:ミシェル・ルグラン『シェルブールの雨傘』『ロシュフォールの恋人たち』
出演:ブノワ・ポールヴールド『ココ・アヴァン・シャネル』、ロシュディ・ゼム『あるいは裏切りという名の犬』、キアラ・マストロヤンニ、ピーター・コヨーテ、ナディーン・ラバキー
原題:The Price of Fame
製作:フランス映画/115分
©Marie-Julie Maille / Why Not Productions
公式サイト Chaplin.gaga.ne.jp