『WISH I WAS HERE/僕らのいる場所』ザック・ブラフ監督インタビュー

出資者46,000人の誰ひとりとして落胆させたくない
主演・脚本・監督を務めたザック・ブラフ

主演・脚本・監督を務めたザック・ブラフ

初の長編監督作『終わりで始まりの4日間』(04)が高い評価を得てから早10年。テレビドラマ「scrubs~恋のお騒がせ病棟」の主演俳優としても人気を誇るザック・ブラフ待望の監督第2作『WISH I WAS HERE/僕らのいる場所』が6月12日より公開される。前作同様、監督・脚本・主演の3役を務めたブラフが描いたのは、俳優になる夢を追い続けた挙句に無職の35歳男が、敬虔なユダヤ教徒である父が癌に冒され余命あとわずか・・・という厳しい現実に直面したことで、家計を一手に支える妻(ケイト・ハドソンが好演!)やふたりの子供たち、父や引きこもりの弟というような家族の関係を見つめ直し、そして信仰や宗教観に向き合いながら自分自身を模索する物語だ。

最近はクラウドファンディングによる映画製作が脚光を浴びているが、本作も製作費をクラウドファンディングで募ったものである。ブラフはキックスターター(ウェブサイトでクリエイティブなプロジェクトに向けてクラウドファンディングによる資金調達を行う手段を提供している団体)で出資金で募ったところ、これが見事に大成功!映画製作実現の大きな原動力となり、そのビジネス手腕の面でも注目されている。

ブラフは現在、ダスティン・ホフマン、マイケル・ケイン、モーガン・フリーマンが主演する新作を監督中だが、忙しい撮影の合間を縫って電話インタビューに応じてくれた。監督としては10年のブランクがあった経緯、クラウドファンディングでの製作資金調達が成功したときの達成感やそれに伴う映画製作への使命感、自身のユダヤ教からの影響などをお話いただいた。

WISH I WAS HERE_main ――本作は、ブラフ監督にとって前作『終わりで始まりの4日間』から10年ぶりの長編映画となります。この10年のブランクがあった理由は何だったのでしょうか?

『終わりで始まりの4日間』を撮影したときは、テレビドラマ「scrubs~恋のお騒がせ病棟」に出演中でした。当時、僕の生活の大半は「scubs」が占めていたのでとても大変でした。「scrubs」の出演の間に、どうにかスケジュールを調整し、『終わりで始まりの4日間』の撮影ができたことをとても幸運に思います。『終わりで始まりの4日間』からしばらくして、次回作の構想を練り始めました。けれど、映画を一本製作するということは本当に大変なことです。企画が固まったと思ったら白紙に戻ったり、役者が決まったと思ったら、ダメになったり。何度か企画が進みそうになりましたが、その度に何らかの理由で頓挫しました。もちろんクオリティにこだわらなければ、この間に数本の映画を撮れたかもしれません。でも、僕が満足いくクオリティを維持して、僕自身が納得いく映画を製作するためにはこれだけの時間を要したのです。

――本作でも監督・脚本・主演の3役をこなしていますが、たとえば監督だけというようにどれか一つの役割に絞りたいという思いはありますか?それとも監督と主演と脚本を兼ねることにこだわりがあるのでしょうか?もしそうならその理由を教えてください。

前作でも監督・脚本・主演を務め、とてもうまくいったと思うので今回も3役を務めることが希望でした。「scrubs」でも主演しながら、何話分かを監督したので経験もありましたし、このやり方はとても気に入っていたんです。3役をこなすことで、より映画を自分の思い描いていたものにすることができました。

――本作はクラウドファンディングで製作資金を集めましたが、その苦労や目標額を達成したときのお気持ちを聞かせて下さい。

数年前、兄(本作で共同脚本のアダム・ブラフ)と一緒に映画の企画を練っているときに出たアイディアです。僕自身の資金とわずかな出資金では、僕たちが望むような映画を製作することはできませんでした。そこで、これほど成功するとは思ってもいませんでしたが、クラウドファンディングを試してみようと思いついたんです。1ヶ月の間に200万ドルを募りました。配分金を支払うことはアメリカの法律で禁じられているので、特典として撮影現場の見学、試写会のチケット、Tシャツなど、ありとあらゆるものを提供しました。結果、製作費の全額ではないですが、大部分をまかなうことができ大成功でした。目標金額をまさか48時間で達成できるとは思っていなかったので、達成したときは天にも昇る気持ちでしたよ。目標金額に達したから48時間で終了と言うわけではなく、その後も出資金は増え続けました。とてもエキサイティングな経験でした。

WISH I WAS HERE ――クラウドファンディングは今後もさらに注目される資金調達方法だと思いますが、長所や改善点など感じたことを教えて下さい。

『ベロニカ・マーズ』もキックスターターで成功していますが(※)、この作品ほどの大きい規模のインディ映画ではおそらく前例がなかったですし、とても革新的な方法だったと思います。マイナスな点があるとしたら、クラウドファンディングについて知らない人がまだたくさんいて、一から説明するためとマスコミ対応のために多くの時間と労力を費やさなければならなかったことです。また、映画を製作することがいかに難しいかを説明し、なぜクラウドファンディングが必要だったのかを根本から説明する必要がありました。クラウドファンディングで思いがけず多額の製作費が集まったことはこの上ない喜びですが、それは映画の製作と並行して46,000人の出資者たちのことを常に考えていなければならないということでもありました。常軌を逸した作業量で、僕の人生で最も過酷な1年になったことは間違いないです。それでも誰ひとりとして落胆させたくはなかった。映画を完成させるだけでも大変なことですが、46,000人分の約束を守るためにも多大な力を注ぎました。いずれにしても素晴らしい経験でしたし、このプロジェクトの一員になれたことを非常に誇りに思います。出資してくれたファンの存在なしでは、まったく違う映画に仕上がっていたでしょう。機会があればまたやりたいとも思いますよ。

(※)テレビシリーズ打ち切り後、映画化のための資金調達をキックスターターで募ったもの。映画は無事に昨年公開。

――映画のなかで宗教や信仰について触れられるシーンもありますが、ブラフ監督にとって信仰はご自身の人生にとってどのような位置づけなのでしょうか?その信仰が今後も監督の映画づくりのどのような点に影響を及ぼすだろうと考えていますか?

WISH I WAS HERE 僕はスピリチュアリティに興味があって、前作でもとりあげています。僕自身が信じている宗教はありません。父親がとても信心深い人で、僕はユダヤ教徒として育てられたので、ユダヤ教は幼少時代の僕の生活の大きな部分を占めていました。そういったこともあり、前作に続き本作でもユダヤ教について描いています。でも本作では、両親から与えられた伝統的な既成宗教を受け入れることができないとき、誰しもが模索するスピリチュアリティについてむしろ描きたかったのです。両親の宗教が何であれ、僕と同年代の人たちの多くは自身のスピリチュアリティの模索を始めるときがきます。
本作の主人公も自分が信じることについて考えをめぐらせます。父親はいつでも答えを提供してくれる偉大な存在だと信じて疑わない子供たちを前に、また、信心深い父親の死を前にして、模索するのです。本作は2015年版モダン・スピリチュアリティの探求についての物語とも言えます。20~40歳といった若い世代の人々にとって、人生における疑問や問いの答えは、親から与えられた既成宗教からではなく、他のところからもたらされることの方が多いはずです。両親からはこの宗教を信じなさいと教えられますが、決まったセットメニューから選ぶのではなく、自ら問いかけることが僕たちにとっては重要なのです。

――主人公のように夢と現実のはざまで揺れ動くというのは、アメリカだけではなく日本でもそうですし、多くの人が抱く普遍的な悩みだと思います。ブラフ監督も同様の悩みをされたことはあったのでしょうか?そういう体験がこの映画に生かされているのでしょうか?

僕もよく夢をみます。想像から脚本のアイディアが生まれますし。誰もが子供時代に、自分は何か特別な存在であると妄想したのではないでしょうか。女の子はお姫様、男の子はヒーロー、もしくはその逆もあるかもしれない。「自分が特別な存在だったら」って。この映画にもあるように、「子供の頃に夢見た、人々を救うヒーローに比べると今の自分はまったくの出来損ないだ」って思ってしまうものです。だからこそ、子供の頃に夢見たヒーローに人生の正しい方向へ導いてくれることを願っているのではないでしょうか。

<取材後記>
本作は、特に主人公と同じアラフォー世代の人なら自分と重なる部分も多いと思う。私の場合は、父親の病気は重いエピソードで辛いシーンではあるが、ユーモアを交えて湿っぽくならず、笑い泣いて、そして前を向いて進む姿には勇気づけられた。きっとブラフに投資したファンも満足に思っていることだろう。
それにしても取材前は、監督第3作目はまた10年後かな・・・と漠然と思っていたが、冒頭に触れたように何とすでに新作(それも初めて自分が出演しない映画を監督するという)を撮っていると聞いて驚いた。しかもキャストはビッグネーム揃い。ブラフの本格的な飛躍を予感させるが、まずは本作を見てその才能を確かめてほしい。

WISH I WAS HERE<プロフィール>
ザック・ブラフ Zach Braff
1975年4月6日、アメリカ、ニュージャージー州生まれ。10代の頃から演技を始め、ウディ・アレン監督『マンハッタン殺人ミステリー』(93)で映画デビュー。大学卒業後、舞台やテレビ、映画への出演を重ね、2001年から2009年に放送された大ヒットテレビドラマ『Scrubs〜恋のお騒がせ病棟』の主人公ジョン・“JD”・ドリアン役で大ブレイク。数エピソードを監督するなど、製作にも関わった。2004年に監督・脚本・主演を務めた『終わりで始まりの4日間』で長編監督デビューし、インディペンデント・スピリット賞新人作品賞をはじめ数々の映画賞を受賞。近年ではロンドンのウェスト・エンドをはじめ舞台でも活躍する。昨年は『ブロードウェイと銃弾』のブロードウェイミュージカル版の主役に抜擢され、ブロードウェイデビューを果たす。主な出演作に『ブロークン・ハーツ・クラブ』(00)、『チキン・リトル』(05)、『ラストキス』(06)、『オズ はじまりの戦い』(13)など。

▼作品情報▼
監督:ザック・ブラフ
脚本:ザック・ブラフ、アダム・ブラフ
出演:ザック・ブラフ、ケイト・ハドソン、ジョーイ・キング、ジョシュ・ギャッド、ピアース・ガニォン、マンディ・パティンキン
2014年/アメリカ/英語/シネスコ/106分
原題:WISH I WAS HERE
配給:ミッドシップ
公式サイト:http://www.wishiwashere.net/
©2014, WIWH Productions, LLC and Worldview Entertainment Capital LLC All rights reserved.
6月12日(金)、新宿シネマカリテほか全国公開

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