エレファント・ソング

映画と。ライターによるクロスレビューです

Elephant Song/Melenny【作品解説】
カンヌ国際映画祭の審査員に史上最年少で抜擢され、明日の映画界を担う美しきカリスマ、グザヴィエ・ドラン。監督だけにとどまらず、俳優としても評価の高い彼が「これは僕だ。僕に演じさせてほしい」と出演を熱望したという本作は、精神科病棟内で繰り広げられる心理劇。人々を翻弄しつつも痛々しいまでに愛を求める青年マイケルをドランが熱演。ブルース・グリーンウッド(『スター・トレック』)やキャサリン・キーナー(『カポーティ』)など実力派俳優と共に緊張感あふれる会話劇を展開し、俳優としての底力を見せつけた。

【ストーリー】
ある日、一人の精神科医が失踪した。手がかりを知るのは、彼の患者であるマイケルという青年だけ。院長のグリーンはマイケルから事情を聞こうとするが、ゾウやオペラについての無駄話で、話をそらすばかり。「母を殺した」「ローレンス医師から性的虐待を受けていた」など、嘘か本当かわからないようなことをほのめかし、グリーンを巧妙な罠に取り込んでいくが…。


【クロスレビュー】

今をときめくドランが俳優に専念した主演作ということで注目される本作。確かに彼を愛でるための眼福映画であることは否めない。劇中の“3つの約束”の真意が明かされたときに見せた、苦悶の表情までも何とまあ美しく、ウットリもの。もちろんドランvs. グリーンウッド&キーナーの息詰まる心理戦も見応えがあり、舞台が精神病院という閉鎖空間、かつ色彩のトーンをグリーンの寒色系で統一していることも緊迫感を増幅するのに一役買っている。だが会話の主導権が終始ドランにあることで、いっそのこと監督もドランがやっても良かったんじゃないか、ドランだったらどう演出しただろうかという思いも頭をかすめ・・・。もちろんビナメ監督が悪いわけではないが、時代の寵児相手では大変だったろうな、とつい想像してしまう。
(富田優子/★★★☆☆)

ドランがこのマイケル役を熱望して演じたとのことだが、見て納得。彼がこれまで自身の映画でテーマにしてきた問題が、この役に凝縮されていると言っていい。さらにマイケルが放つ妖しい色気や、大人たちを翻弄していく大胆不敵な言動もドラン本人と重なり、まさに適役。と、彼ばかりに注目しがちだけど、周りを固める共演者や練られた脚本があってこその心理劇。マイケルの不可解な言動やアイコンの意味(なぜ象に執着するのかetc. )が明らかになるクライマックスから、予想しえないラストにかけてのトーンの転調は独特で、意外な余韻にじわじわくる一本。
(鈴木こより/★★★★☆)

ある医師の失踪を契機に精神病院の一室で行われる、院長と患者マイケルのやりとりはまるで舞台劇を見ているようだ。予想のつかないマイケルの言動に翻弄され、問う者、問われる者という立場は常に揺らぐ。やがて明らかになるのは、冒頭に流れるプッチーニのオペラ曲がマイケルの人生を象徴しているということ。愛を渇望する者の苦しさ、一筋縄ではいかない母との関係性はグザヴィエ・ドラン監督作品を彷彿とさせる。しかしながら、院長や看護師長のエピソードが輻輳するため、とっ散らかった印象も。もっとシンプルな構造の方がストレートに移入できただろう。
(外山香織/★★★☆☆)

 


※​2015年6月6日(土)より、新宿武蔵野館、渋谷アップリンク他、全国順次公開
監督:シャルル・ビナメ
脚本:ニコラス・ビヨン
出演:グザヴィエ・ドラン、ブルース・グリーンウッド、キャサリン・キーナー、キャリー=アン・モス、ガイ・ネイドン、コルム・フィオールドンほか
製作:2014/カナダ/100 分
公式サイト:http://www.uplink.co.jp/elephantsong/
©Sébastien Raymond

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