『私の少女』チョン・ジュリ監督インタビュー

ペ・ドゥナ主演、14歳の少女と孤立した女性警官を繋いだ“共通点”とは

watashinosyoujoカンヌをはじめ、世界の映画祭で喝采をあびた『私の少女』がついに公開される。韓国の国民的人気女優ペ・ドゥナと、子役として国内外で高い評価を得ているキム・セロンがW主演の話題作だ。この奇跡の競演作を生み出したのは韓国の新人監督チョン・ジュリ。これが彼女にとって長編デビュー作となる。映像院(大学院)卒業後、初めて挑んだこの長編シナリオが巨匠イ・チャンドンの目に留まり、主演のペ・ドゥナも脚本を受け取った3時間後に出演を快諾したという。この2人の心を掴んだ物語とは・・・。
左遷され孤立した女性警官と、傷ついた14歳の少女の出会いと再生を、細やかな心情描写と緊張感溢れる演出で描ききる感動作。来日したチョン・ジュリ監督に、本作に込めた想いを伺った。

【あらすじ】
小さな海辺の村。ソウルから所長として赴任してきた女性警官ヨンナム(ぺ・ドゥナ)は、14歳の少女ドヒ(キム・セロン)と出会う。ドヒは血のつながりのない継父ヨンハと祖母と暮らしていて、日常的に暴力を受けている。村人たちは老人ばかりで、ヨンハのドヒに対する暴力を見てみぬふりしている。そんな状況にひとり立ち向うヨンナムは、ドヒにとって暴力から守ってくれる唯一の大人だった。エスカレートしてゆくヨンハの暴力から守るために、ヨンナムはドヒを一時的に自宅に引き取り面倒をみることにするのだが・・・。


ーーカンヌ国際映画祭などで高い評価を受けていますが、本作を撮り終えて、手応えや自信を感じていましたか?

監督: 今回の作品は私的で個人的ともいえる、小さな物語です。だから最初はこんなに世界が広がるとは思ってもみませんでした。観客の皆さんと出会った時に、初めて強い手応えを感じました。多くの人と出会うことができ、これほど多くの方が共感してくださるのだと知り、大きな勇気をもらいました。小さな物語でも真心と誠意を込めて作れば、どこかで誰かが見てくれる、耳を傾けて共感してもらえるのだということを知りました。

ーー長編デビュー作ということで、一番こだわったところは何でしょうか?

監督: 何と言っても、二人の主人公の感情表現です。この二人は環境の変化によって、気持ちもどんどん変わっていきます。微妙な感情の流れをうまく表現しなければ、というところにこだわりました。また緊張感を失わずに最後まで見てくださる方がいたとしたら、それは私が念頭に置いていたものでした。この映画は二人の感情を理解することが鍵になりますが、私がどんなにそう思っていても、二人の女優さんが内面の世界を上手く表現してくれなければ伝わらないと思います。幸いなことに、上手く演じきってその感情を表現してくれたと思います。

ーー国民的女優二人とのお仕事で、何が一番印象に残っていますか?

監督: シナリオを書き上げて、本当に撮ることになったら誰にお願いしようかなと思った時に頭に真っ先に浮かんだのがこの二人でした。その二人とお仕事ができたのは、私の大きな幸運の一つです。私が考えていた以上のシナジー効果が出せたと思います。共演することでお互いにインスピレーションを与え合っていたようで、一人ずつ演じていたシーンよりも相乗効果が生まれていたように思います。

ーー舞台のヨスという場所は監督の故郷だそうですが、なぜそこで撮ろうと思ったのですか?

監督: ヨンナム(ペ・ドゥナ)が訳あってソウルに居られなくなり、最も離れた土地に逃げてくるという背景があります。そんな彼女を象徴するような場所で、自然が持つ二つの側面を持ち合わせています。海が与える雰囲気といい、どうなってしまうか分からないという一面を持っています。外からは美しく見えても、中にいると怖いと感じることもたくさんあります。そういうことも含めて映画の背景に合うと思いました。シナリオを本格的に書き上げたのもヨスだったんです。

ーー主人公の二人は虐待や性的マイノリティということで心に傷を抱えていますが、他の登場人物も高齢化や過疎など社会的な問題に直面しています。なぜこのようなテーマをストーリーに盛り込んだのでしょうか?

監督: 最初に出来上がったキャラクターはドヒでした。ドヒは虐待されている子どもですが、その相手を挑発するようなこともします。「果たしてそんなことができるのか」ということも考えながら物語を作っていったのですが、同じように寂しさを抱えているヨンナムと出会わせてみようと話を発展させました。物語の核になる部分は「寂しさ」でした。ドヒは誰からも関心を寄せられず、誰かの愛情の対象になったこともない子どもです。寂しさの中にいるからこそ寂しさの意味すらも分からない。逆にヨンナムは自分の寂しさを痛いほど感じているけど、それを克服する方法を知らない。しかも同性愛者で、彼女はそれを運命やアイデンティティとして受け入れようとしている。そんな二人が出会い、互いに共感できる余地はあるのかと話を膨らませました。
外国人労働者の話は、実際にシナリオを書いていた時に実際に見た光景だったんです。高校を卒業してからソウルにいたものですから、故郷の変化に気づいていなかったんです。そして彼らもまた寂しさを抱えており、ドヒやヨンナムと通じるものがあると思いました。寂しさを辿っていくうちに、人物を追っていくうちに、小さな村の中にテーマが集まっていたのです。

ーー劇中でも「小さな怪物」と言われるキム・セロンさんの怪演について(※複雑な役柄のため一度は辞退するも、「500人の子役をオーディションしても決められなかった」という監督から再度ラブコールを受け、出演を決意したという)

監督: 彼女は当時13歳だったのですが、その年齢だからこそできる最善の演技だったと思います。彼女がもっと幼くても、もうちょっと年上でもダメだったと思うんです。まさにその年齢だったからこそ、うまくこの役をこなしてくれたのだと思います。でもこの役はけっして容易ではありません。彼女はこれまで数々の役を演じてきましたが、13歳の少女にこの役を演じてもらうのは本当に申し訳ないと思いました。でも毅然としっかり演じてくれたので感謝しています。ドヒという少女は今いる世界に閉じこもってしまう子ですが、この映画を通して外の世界に出てほしいと思っていました。きっと彼女もそんな思いで演じてくれたのではないでしょうか。

5月1日(金)よりユーロスペース、新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー!

チョン・ジュリ監督 プロフィール
1980年3月1日生まれ。成均館大学映画学科を卒業後、韓国芸術総合学校映像院映画科演出専攻専門士課程で学び、2007年短篇「影響の下にいる男」で第12回釜山国際映画祭ソンジェ賞を受賞し、短篇「11」(08)はソウル国際女性映画祭アジア短篇コンペティション部門で演出力を評価された。続く短篇「わたしのフラッシュの中に入ってきた犬」(10)で着実に映画監督として力量を広げ、本作で初の長編映画デビューを飾る。デビュー作ながらカンヌ国際映画祭「ある視点」部門に正式出品し高い評価を受けた。


agirlatmydoor監督・脚本:チョン・ジュリ
出演:ペ・ドゥナ、キム・セロン、ソン・セビョク
プロデューサー:イ・チャンドン
原題:A Girl at My Door
製作:2014年/韓国/119分
配給:CJ Entertainment Japan
公式サイト:http://www.watashinosyoujyo.com
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