Mommy/マミー
【作品解説】
『マイ・マザー』で世界の映画シーンに鮮烈なデビューを飾り、『わたしはロランス』『トム・アット・ザ・ファーム』とデビュー以来全作品がカンヌ、ベネチアといった世界三大映画祭へ出品されるなど、一躍時代の寵児となったグザヴィエ・ドラン監督の最新作。2014年カンヌ映画祭において審査員特別賞を受賞し、審査員長のジェーン・カンピオン監督からも絶賛された、「母と子」の深い愛情と葛藤を暴く、魂をえぐる感動作。
【ストーリー】
2015年、架空のカナダで起こった、現実——。
2015年の連邦選挙で新政権が成立し、内閣はS18法案を可決する。中でも議論を呼んだのは、発達障がい児の親が経済的困窮や、身体的、精神的な危機に陥った場合、法的手続きを経ずに養育を放棄し、施設に入院させる権利を保障するという法律である。ダイアン・デュプレの運命は、この法律により大きく左右されることになる。ダイアンは掃除婦として生計を立てながら15歳になる息子スティーヴと暮らすシングルマザー。スティーヴはADHD(多動性障害)を抱え、性格は攻撃的で情緒不安定。矯正施設から退所してきたばかりで、ダイアンは自宅でこの問題だらけの息子の面倒をみることになったのだ。そんな二人が楽しくも困難な生活を送る中、隣家のカイラはスティーヴの家庭教師を買って出る。純粋なハートを持ったスティーヴと友情を育み、カイラ自身の心も快方に向かうように見えたのだが……。
【クロスレビュー】
ドラン監督の映画には、いつもはっきりとした意思を感じる。だからこそ惹き付けられるのだが、その表現手法も斬新で驚かされる。今作では本当に度肝を抜かれてしまった。こんな映像表現があったのかと。監督が大好きだという「タイタニック」の名シーンを思わせる場面で、その瞬間は訪れる。精神的にも肉体的にも抑圧されていた主人公の少年が未来に向かって心を開くシーンの、あの高揚感は忘れられないだろう。19歳で撮った「マイ・マザー」では少年の目線で母親を辛辣に語っていたけど、あれから5年が経ち、本作では母親に寄りそうような眼差しで親子関係を描いている。成長著しい年頃における心境の変化なのだろうか、それとも、あえて対になるような映画を作ったのか。目が離せない監督である。
(鈴木こより/★★★★★)
グザヴィエ・ドランは自らが主演した『マイ・マザー』でも母と子の関係性を描いていたが、これは違うテイストだ。ADHDのスティーヴと母親ダイアン。愛していても一緒にはいられない、諸とも死へ向かってもおかしくない状況でダイアンの選んだ「希望」と、そのためには何かを捨てることも辞さないと言う覚悟。これはパーソナルな母と子の話ではなく、もっと突き抜けた、普遍的な話なのである。その意味でも、スザンヌ・クレマン演じる隣家の女性の存在が効いている。1対1のアスペクト比は個を強調させるけれど、だからこそ3人が枠に収まることは難しくて貴重だ。枠にとどまらずそれを手で押し広げて疾走するスティーヴは未来であり可能性であり、それは監督自身をも髣髴とさせる。もう、この監督の映画は全部見るしかない。
(外山香織/★★★★☆)
4月25日(土) 新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町、
YEBISU GARDEN CINEMA、109シネマズ二子玉川ほかにて全国順次公開
監督・脚本:グザヴィエ・ドラン
出演:アンヌ・ドルヴァル、スザンヌ・クレマン、アントワン=オリヴィエ・ピロンほか
製作:2014年 カナダ 138分
配給:ピクチャーズデプト
公式サイト:http://mommy-xdolan.jp
Photo credit : Shayne Laverdière / © 2014 une filiale de Metafilms inc.