『唐山大地震』馮小剛(フォン・シャオガン)監督インタビュー

延期から4年、ついに公開

tangshan 1976年7月28日、中国・河北省唐山。北京から東へ約150キロに位置するこの工業都市を、マグニチュード7.8の直下型地震が襲った。死者24万人、重傷者16万人。20世紀最悪の震災と言われる唐山大地震である。
 2010年、この未曾有の大震災を描いて中国で大ヒットを記録した映画が『唐山大地震』だ。地震で倒壊した家の下敷きになった息子と娘。どちらか一人しか救えないと残酷な選択を迫られ、息子を選んだ母親の苦しみと、一命を取り留めた娘の心の闇。二人の人生を軸に、震災で生き残った人々の苦しみと心の再生を描く。
 映画の完成から5年の歳月を経て、本作が今月14日(土)より日本で劇場公開される。当初2011年3月26日の公開が予定されていたが、直前に東日本大震災が発生。被害状況や被災者の心情を鑑み、公開延期を余儀なくされていた。
 本作の監督は馮小剛(フォン・シャオガン)。『イノセント・ワールド-天下無賊-』(07)や『狙った恋の落とし方。』(10)などコメディ作品で大ヒットを連打してきた一方、「ハムレット」を題材にした『女帝[エンペラー]』(07)や『戦場のレクイエム』(09)、『一九四二(原題)』(12・日本未公開)など、歴史ドラマや戦争映画といったシリアスな作品まで幅広く手がけ、新作公開のたびに注目を集める中国のスター監督だ。
 そんな馮監督が、被災者の苦しみに向き合い、犠牲者を思って撮り上げた作品が『唐山大地震』だ。中国映画界を代表するヒットメーカーの作品というだけあって、序盤で描かれる地震シーンの特撮費用だけで7,000万~8,000万元(09年当時、1元=約13.5円)が注ぎ込まれた大作ではあるが、軸となっているのは“心の復興”。3.11から4年。我々日本人にとっても、大切なことを改めて問い直す機会を与えてくれる作品だ。
 「映画と。」では、2011年に来日した馮監督にインタビューを行っていた。4年越しの公開を前に、その内容を紹介したい。


―本作は2010年7月に中国で封切られ、興行収入6.6億元(約80.5億円)という中国映画歴代最高興収記録(当時)を樹立する大ヒットとなりました。馮監督ならばネームバリューだけでも一定の動員は可能だと思うのですが、この大ヒットの最大の要因はどこにあったと思いますか?

tangshan2娯楽映画でないにもかかわらず大きな製作資金を任せてもらえたのは、私の映画なら映画館に来てもらえるという目論見もあったでしょう。私の方も観客の期待を利用して、このようなシリアスな作品を撮ったと言えます。今の中国の観客が求めるものは、ハリウッド映画と中国映画でまったく違っているんです。ハリウッド映画に求めるものは、ヴィジュアル、サウンドの満足感やCGなどを駆使したエンターテインメント性。一方、中国映画には情感の上での満足感を求めているので、この映画はそのポイントを満たすことが出来たのだと思います。仮にハリウッドがディザスター・ムービーを撮ると、フィクションの災害を想定して、そのプロセスを娯楽性に富んだ撮り方で見せようとするでしょう。でも、私たちの映画はそんなことは出来ません。これは本当にあった災害だからです。やはり「心」に訴えかける方向で撮らなければ。

―地震を再現した特撮映像が大変リアルでした。『戦場のレクイエム』ではアクションシーンの撮影に韓国のスタッフが参加されていましたが、本作の地震のシーンにも海外のスタッフを招聘したのでしょうか?

『戦場のレクイエム』で組んだ韓国のスタッフも起用しましたし、CGの部分では『ハリー・ポッター』シリーズに携わっているイギリスのチームや、南アフリカのチームとも組んでいます。
私はディザスター・ムービーを撮るのが初めてでした。もちろんこの映画の重点はそこにあるわけではないのですが、観客にストーリーを信じさせるためには、地震を再現した冒頭の数分間がとても大事で、リアルなシーンを撮らなければと思っていました。

―監督は小さい頃にお父様を亡くされていますね。片親で育ったというご自身の幼少期の暮らしが、この作品を撮る上で何か影響しましたか?

tangshan3私も母親に育てられたので、母に対する思い入れは非常に深いものがあります。この映画の原作となった小説の中では、実は娘のストーリーに力点が置かれているんです。でも私は、母親の立場から描いたほうが観客に訴えかけるものが大きいと思いました。自分が母親の手で育てられたということが影響しているのかもしれませんね。

―本作には、被災者や遺族がエキストラとして大勢出演されていると聞いています。印象に残った撮影時のエピソードがあれば教えてください。

死者のために紙銭を燃やすシーンがあるのですが、あれは実際の遺族の方々にやってもらいました。彼らが本番中に何かしゃべると主要キャストのセリフと一緒に入ってしまうので、録音スタッフが黙って紙銭を燃やしてくれるよう事前に説明しました。紙銭を燃やしていると、遺族たちは自然と亡くなった家族に話しかけてしまうのです。それでキャストのセリフはアテレコすることにして、皆さんにはそのまま色々と語りかけてもらうことにしました。すると、脚本執筆の段階では思いもしなかったことが彼らの口から語られました。例えば、亡くなった家族に何度も引越し先の家への帰り道を教えている人がいたので、それはセリフに活かしました。皆さん、カットの声がかかっても燃やすことをやめませんでした。

―エンディング曲に王菲(フェイ・ウォン)の「般若心経」を使用した理由は?

編集もほぼ終わって、完成までもう最終段階という頃に、たまたま友人の家でこの曲を聴きました。被災者の方々の名前が流れるエンドロールにぴったりだと思い、版権の所在を確認したら、陝西省のあるお寺のために歌った曲だと分かり、すぐに交渉して使わせてもらうことにしました。彼女も映画を観て、とても感動したと言ってくれました。でも、歌が全部使われずに3分の1くらいで終わっていると残念がっていましたね。ものすごく長い曲なので、全部流すとエンドロールがすっかり終わっていまうんですよ。
(2011年1月18日、東京都内・松竹会議室にて)


FengXiaogang


Profile of Feng Xiaogang
1958年、中国・北京生まれ。舞台やテレビドラマの美術の仕事を経て、映画の道へ。春節(旧正月)に公開された『甲方乙方(原題)』(97・日本未公開)、『不見不散(原題)』(98・未)、『没完没了(原題)』(99・未)などが好評を博し、中国の人々の間に「お正月映画=馮小剛映画」の人気が定着する。代表作に、『ハッピー・フューネラル』(03)、『手機(原題)』(03・未)、『イノセントワールド -天下無賊-』(07)、『女帝[エンペラー]』(07)、『戦場のレクイエム』(09)、『狙った恋の落とし方。』(10)などがある。

▼作品紹介▼
『唐山大地震』
原題:唐山大地震
監督:馮小剛(フォン・シャオガン)
主演:徐帆(シュイ・ファン)、張静初(チャン・チンチュー)、李晨(リー・チェン)、陳道明(チェン・ダオミン)
エンディング曲:王菲(フェイ・ウォン)「般若心経」
原作:「唐山大地震」張翎(チャン・リン)(角川文庫刊)
配給:松竹メディア事業部
2010年/中国/135分
(c)2010 Tangshan Broadcast and Television Media Co., Ltd. Huayi Brothers Media Corporation Media Asia Films (BVI) Ltd. All Rights Reserved

3月14日(土)より全国公開

公式サイト http://tozan-movie.com/

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