アメリカン・スナイパー

映画と。ライターによるクロスレビューです

AMERICAN SNIPER【作品解説】
公式記録では米国史上最多160人を射殺し、米軍史上最強の狙撃手と言われたクリス・カイルの自伝を、ブラッドリー・クーパーを主演に迎え、84歳のクリント・イーストウッド監督が映画化。カイルは味方からは「伝説のスナイパー」として英雄視される一方、イラクの反政府武装勢力からは「ラマディの悪魔」と恐れられ懸賞金が賭けられるほどに。過酷な戦場での実情や、故郷に残してきた妻子への思いなど、ひとりの兵士の姿を通して、現代米国が直面する問題を浮き彫りにする。クーパーは本作で3年連続アカデミー賞にノミネートされ、製作にも名を連ねている。


【クロスレビュー】
さすがはイーストウッドというべき、傑作ではないだろうか。女性や子供も射殺するスナイパーでありながら良きファミリーマンでもあるという矛盾を内包する主人公の苦悩の繰り返し、淡々と映し出される戦場と帰還後の生活の繰り返しで、緊張と緩和の繰り返しが生まれ、それが映画を観る者の価値観を激しく揺さぶる。この映画は、敢えて善悪や道徳観を観る者に提示しない。だからこそ、観た人が自らの価値観を自らに問わざるを得ない。これはイーストウッドから観客への挑戦でもあるだろう。称賛も批判も受けて立つ。そのどちらも簡単には寄せ付けない孤高の強さ、懐の深さを持つ映画である。
(石川達郎/★★★★★)

カイルは果たして英雄だったのか?イラク戦争は本当に正しかったのか?この映画からそんな問いの答えを模索するのはもはや愚かしいほどに、戦争が奪ったものの大きさに打ちのめされた。イーストウッドは戦場での緊迫感とアメリカで家族と過ごすひとときという緩急を巧みに織り交ぜた演出で、“普通の人”カイルの複雑な胸の内をきっちりと表現してみせた。主演クーパーは迫真の演技、とりわけ目の表情が圧巻。彼の瞳が次第にうつろになり、光が失われていく様は、人が殺されていく戦場よりもある意味では酷だ。『世界にひとつのプレイブック』で演技派として開眼したクーパーだが、本作では彼史上最高のパフォーマンスで巨匠の期待に応えている。(余談だがクーパー史上2番目の演技は『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』のロケット(の声)だと思う。)
(富田優子/★★★★★)

祖国アメリカのために「レジェンド」となったスナイパーの苦悩する姿と、ラストに映し出されるアメリカ国民の姿とに、如何ともしがたい距離感を感じ、無音のエンドクレジットをただ見つめるのみ。正直、今月中東であのような事件があったばかりで、観ている時は終始眉間にシワを寄せてしまいました。人質を救ってほしいと願うこと、テロとの戦いとは、結局こういうことに繋がっていくから。『グラン・トリノ』で暴力の連鎖を断ち切る様を描いたイーストウッド監督であるがゆえに、この作品の意味、重みを感じずにはいられない。
(外山香織/★★★★☆)


監督:クリント・イーストウッド
出演:ブラッドリー・クーパー、シエナ・ミラー
原作 クリス・カイル『ネイビー・シールズ最強の狙撃手』(原書房)
原題:American Sniper
配給:ワーナー・ブラザース映画
(C) 2014 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED, WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC
公式サイト:http://www.americansniper.jp
2月21日(土)新宿ピカデリー・丸の内ピカデリー他全国ロードショー
第87回アカデミー賞6部門ノミネート:作品賞、主演男優賞(ブラッドリー・クーパー)、編集賞、脚色賞、録音賞、音響編集賞

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  1. 映画感想 * FRAGILE

    アメリカン・スナイパー/遠くの敵なら、よく見える

    アメリカン・スナイパーAmerican Sniper/監督:クリント・イーストウッド/2014年/アメリカ あー、これはちょっと困りましたね… 丸の内ピカデリー、シアター1 T-19で鑑賞。最近、どんな映画を見てもだいたいは面白いという楽しい脳味噌になっているんですが、今回は困りました。何が困るのかは本文中で。 あらすじ:いっぱい狙撃しました。 海軍特殊部隊のクリス・カイル(ブラッドリー・クーパー)は、イラクで狙撃手としてがんばってました。いっぽう家では子供が生まれました。 ※ネタバレはありません。…

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