フォックスキャッチャー

映画と。ライターによるクロスレビューです。

FOXCATCHER【作品解説】
『カポーティ』(05)『マネーボール』(11)ベネット・ミラー監督の最新作は、全米を震撼させた96年の大富豪デュポン財閥御曹司による金メダリスト射殺事件を基に映画化。孤独、富と名声、心の暗部でつながれた大富豪と金メダリストの心理を鮮烈に描き、カンヌ映画祭監督賞を受賞。ジョン・デュポンを『リトル・ミス・サンシャイン』のスティーヴ・カレル、金メダリスト兄弟の弟を『マジック・マイク』のチャニング・テイタム、兄を『アベンジャーズ』のマーク・ラファロが演じる。カレルの驚くべき怪演、新境地をみせたテイタムの憑依した演技に息をのむ、静かなる狂気の人間ドラマ。彼らの演技は世界中で賞賛を浴び、はやくもオスカー最有力として大注目を集める。


【クロスレビュー】

これは打ちのめされた。人間が持つ嫉妬・羨望・トラウマ・媚び・独占欲・孤独感・虚勢など、数えきれない負の感情が複雑に入り組み、咀嚼しきれないほど押し寄せてくる映画だ。終始漂う危うさと不安定感が、映画を観る人の共感や喜怒哀楽を無視するかの様にストーリーは進んでいく。だが、多くの人が普段決して見せない様にしているであろう負の感情をここまであらわに見せつけられてしまうと、その先にいったい何があるのかを見ずにはいられない。必見の映画と言っていいだろう。
(石川達郎/★★★★★)

なんて哀しい人生なんだろう。主人公の言いようもない孤独が胸に刺さる。少しずつ精神崩壊していく富豪の御曹司をスティーブ・カレルが怪演。静謐な画面のなかに不穏な空気を漂わせ、最後は観る者の心に鮮烈なイメージを焼き付ける。彼はなぜ殺人を犯したのか。『カポーティ』を観た時も思ったが、ミラー監督の視点とアプローチが興味深い。心の闇に迫る説得力のある描写で『カポーティ』の時も主演のフィリップ・シーモア・ホフマンにオスカーをもたらしたが、今作も監督賞、主演男優賞ほか受賞の期待がかかる。
(鈴木こより/★★★★☆)

レスリングを扱っている映画なので、試合のシーンも多く、選手の肉体と肉体のぶつかり合いはとても迫力がある。しかし血湧き肉躍る思いが感じられなかったことが、スポーツ観戦大好きの自分としては違和感を覚えた。五輪金メダリストの吉田沙保里選手の試合とはえらい違いだ。もちろんミラー監督はファイトシーンをエモーショナルに描く気はさらさらなかったのだろうが、相手と闘うというより自分の気持ちを、内に、さらに内に封じ込めるような闘い方で、鬱屈した空気が支配し息苦しい。作品を通して描かれた人間のブラックホール並みの底なしの負の感情に寒気を覚えるが、スポーツ好きの視点からすると、こんなに盛り上がらない映画も珍しく、そういう意味でも鮮烈な作品だった。
(富田優子/★★★★☆)

兄から離れられないマークと、母親の強い影響下にある富豪のデュポン氏は「大人になりきれない子ども」だ。二人はお互いをパートナーとするが子ども同士がうまくいくはずもなく、大人を取り込んでもいずれ消え入る運命にある。そしてデュポン氏の語る、チーム「フォックスキャッチャー」の勝利、「アメリカ」の勝利という言葉が何とも空々しく響く。同じユニフォームを着ていながらメンバーの心はバラバラ、誰一人デュポン氏には向いておらず、レスリング競技でオリンピック金メダルを取ってもアメリカ社会においては正当に評価されない。富も名声も救いにはならない現実。観終わって数日経った今も泥沼に引き込まれたような感覚が残っている。
(外山香織/★★★★★)


本年度カンヌ国際映画祭 監督賞受賞
第72回米ゴールデン・グローブ賞「作品賞」「主演男優賞」「助演男優賞」3部門ノミネート
第87回アカデミー賞「監督賞(ベネット・ミラー)」「主演男優賞(スティーヴ・カレル)」「助演男優賞(マーク・ラファロ)」「脚本賞」「メイクアップ&ヘアスタイリング賞」5部門ノミネート

2015年2月14日(土) 新宿ピカデリー他全国公開
公式サイト: http://www.foxcatcher-movie.jp

監督:ベネット・ミラー 『マネーボール』、『カポーティ』
脚本:E・マックス・フライ、ダン・ファターマン
出演:スティーヴ・カレル『リトル・ミス・サンシャイン』、チャニング・テイタム『マジック・マイク』、
マーク・ラファロ『アベンジャーズ』 、シエナ・ミラー『ファクトリー・ガール』
2014/アメリカ/上映時間:135分/PG12
配給:ロングライド

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  1. 映画感想 * FRAGILE

    フォックスキャッチャー/欲しいものは、何でも手に入れた

    フォックスキャッチャーFoxcatcher/監督:ベネット・ミラー/2014年/アメリカ そういう生き方しか、知らなかった。 角川シネマ有楽町、H8で鑑賞。F列くらいでも良かったです。 あらすじ:富豪にスカウトされたら大変でした。 レスリングの金メダリスト、マーク(チャニング・テイタム)は、財閥の御曹司、ジョン・デュポン(スティーヴ・カレル)から「うちへ…来ないか…」と誘われ、あっはい、って答えたら「お前の…兄も…欲しい…」と更に言われ、兄デイヴ(マーク・ラファロ)を説得しに行ったところ「俺は別にい…

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