映画『深夜食堂』

大人のファンタジー映画

メインスチル「映画「深夜食堂」」『孤独のグルメ』と双璧を成す夜の食ドラマ、『深夜食堂』が映画化された。原作漫画は現在も連載中、ドラマもシーズン3まで制作された人気シリーズである。
繁華街の路地裏にある深夜0時~朝7時頃まで営業している小さな料理屋。メニューは豚汁定食にビール、酒、焼酎だけ。あとは勝手に注文すれば店にあるもので出来るものなら何でも作ってくれる。深夜という時間帯のせいか、職種も生活環境も様々な人が集まるが、マスターの営業方針と接客は誰が相手であろうと変わる事はない。そんな店に集まる客たちが繰り広げる様々な人生模様を描いたお話。

原作漫画からずっとファンだった筆者から見て、今回の映画化には実は複雑な思いがあった事を先に話しておこう。漫画『深夜食堂』の良さは、短いページ数で終わるがゆえに、逆に深い印象を与えるところだと思っていた。それは五七五だけで受け取る側の心に響く俳句の様なもの。それが30分のドラマになり、マスター役の小林薫の佇まい、昭和を感じさせるセットの味わい、画面からおいしい匂いが漂ってきそうな素朴な料理の数々という新たな魅力によって、五七五七七の短歌の様な味わいになった。それが2時間の映画になってしまったら、説明過剰で間延びしたこれまでとは全く違うものになってしまうのではないかという不安。

結論から言うと、マスターの営業方針と接客の様に、深夜食堂は深夜食堂だったと言っていいと思う。映画は3つのストーリーのオムニバス形式になっており、それが30分ドラマという従来の形を踏襲している。そして、3つのストーリーに出る3人の女性が全く違うキャラクターだった事で、人っていろいろあるし、いろんな人がいると感じさせる、深夜食堂の面白さがこの映画1本ですぐに分かってしまえる2時間になっている。
「ナポリタン」の都会の悪女、「とろろご飯」の田舎の純朴な女性、「カレーライス」の悩むOL。それを「できるもんなら何でも作るよ」とばかりにマスターが受け止める。共感するでもなく、説教くさいでもなく、それでいて優しさを感じさせるマスターの魅力が「できるもんなら何でも作るよ」という言葉に表れている。

例えが悪いかもしれないが「出来る事なら何でもしてあげるよ」という男がいたとして、本当に何でもしてくれる男なんてどれだけいるか。そんな事言われても、いや私そんなのいいですって女性は思うんじゃないだろうか。でも「できるもんなら何でも作るよ」には押し付けじゃない、それでいて目の前のあなたに誠実に接しようという柔らかい愛情が伝わってくる気がする。今の世の中、このくらいの愛情が実は心地いいという時代なのではないだろうか。日々生きる事にしんどい思いをしている現代社会には、大きな愛情が必要なんじゃなくて、小さくとも柔らかく気が休まる愛情を日々感じる事こそ必要とされているんじゃないか。『深夜食堂』がヒットするのも、マスターの様な人と、深夜食堂の様な店を求める人が多いからだと筆者は思う。主役の小林薫さんはそれを大人のファンタジーと言っていたが、まさに言い得て妙。大人にとって夢の様な2時間のファンタジーをぜひ劇場で楽しんでいただければと思う。

▼作品情報▼
監督  :松岡錠司
原作  :安倍夜郎「深夜食堂」(小学館「ビッグコミックオリジナル」連載中)
キャスト:小林薫、高岡早紀、柄本時生、多部未華子、余貴美子、筒井道隆、菊池亜希子、田中裕子、オダギリジョー、松重豊、光石研、不破万作、綾田俊樹、安藤玉恵、山中崇 他
配給  :東映

(C) 2015安倍夜郎・小学館/映画「深夜食堂」製作委員会

2015年1月31日(土)全国公開

公式サイト:http://www.meshiya-movie.com

トラックバック-1件

  1. 名機ALPS(アルプス)MDプリンタ

    『深夜食堂』お薦め映画

    実際のところ、路地裏のこじんまりした店って結構繁盛しているらしい。昨今の世相を交えたいかにも“あるある”エピソードの数々と、客を見てないようで見ている寡黙なマスターの人柄に引き込まれる。忙しい食いしん坊の骨休めにもってこいの人情コメディ。

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