『チョコリエッタ』風間志織監督インタビュー

森川葵×菅田将暉主演:フェリーニの名作にオマージュを捧げた青春映画

kazamaDr女性映画監督の先駆者といえる風間志織監督が、大島真寿美の青春小説「チョコリエッタ」を映画化。未来に戸惑い苛立ちを隠さない女子高生とその先輩の、ひと夏の物語を描く。主演は、雑誌「Seventeen」の人気モデルで瑞々しい存在感が魅力の森川葵と、『そこのみにて光輝く』『海月姫』など出演作が相次ぎ、活躍が期待される菅田将暉。感性豊かな若手二人のまっすぐな演技のぶつかり合いに加え、巨匠フェデリコ・フェリーニにオマージュを捧げた遊び心あふれる映像世界も見どころの作品となっている。今月17日の劇場公開に先立ち、昨年の東京国際映画祭で上映された本作は、今後も香港とスウェーデンの国際映画祭で上映されることが決定し注目を集めている。
今回のインタビューで風間監督は、原作から新たに書き加えた設定のこと、主演二人の役作りへの姿勢、驚きの撮影秘話などを語ってくれた。

——この原作小説を映画にしようと思ったきっかけを教えてください

原作者の大島真寿美さんとは昔からの知り合いなんです。大島さんは名古屋方面で演劇の活動をされていたことがあり自主映画もよく観ていたらしく、私も20歳過ぎぐらいから自主上映で名古屋に行ったりしていて、飲み会で紹介されたんです。20年来のお付き合いになります。それで、4、5年前に久しぶりにお会した時に「『チョコリエッタ』を映画化したい人がいるんだけど監督が決まってないみたい」という話を聞いたのですが、その映画化したい人というのが、たまたま私のよく知っている人で。もちろん原作は読んでいたし、私にとって大島さんの作品には特別な思いもあり、「撮るなら私でしょ」(※)という感じで立候補しました(笑)。そんな内輪ノリから始まったんです。
(※)主人公の知世子らと同様、風間監督も高校時代に映画を製作。「生きることに暗い気持ちの子供だった私を映画が助けてくれた」とコメントしている(プレス用資料より)

——3.11を思わせるシーンは原作にはなく、映画で新たに加えられていますが、なぜ設定を変えたのでしょうか?

chokolietta3資金がなかなか集まらず企画を寝かせているような期間があったのですが、そうしているうちに東日本大震災が起こりました。福島だけでなく東京を含む関東圏にも放射能がたくさん降り注ぎました。でもみんな知らないふりをしている。その話は、暗黙のうちに言ってはいけないことになっている。「気持ち悪いな」と思いました。でもこの気持ち悪さは今に始まったわけでなく、実は昔からあったものが露わになっただけなんだと改めて気付かされた。この世界はうんこそのものじゃないかと。非常に恐ろしく、まず、自分の子の未来を思いました。この子たちの10年後は、今よりももっと大変な時代になっているかもしれない。その時彼らの怒りや悲しみはどれほどになるのだろうか?…そう思った時に、ふと『チョコリエッタ』を思い出しました。原作が書かれた2000年前後の少年少女達のやるせない怒りや反抗心がそのまま2021年ぐらいの近未来の少年少女たちにタイムスリップして、私の中で生き始めたんです。そうだ、3.11後の子どもたちという設定でもう一度書き換えてみようと、なにかがカチっとハマったんです。

——原作との相違について、原作者の大島さんは何か仰っていましたか?

書き終わってすぐに脚本をお送りしたのですが、全然問題なくOKでした。大島さんの人間の大きさだなと。

——知世子役のヘアスタイルが衝撃的でしたが、森川葵さんのキャスティングについて教えてください。母親役の市川実和子さんと似てらっしゃいますよね?

とにかく髪を切ってくれる女優さんを探していました。森川さんに決まってから、母親役は市川実和子さんだなと思ってオファーしたんです。

——すいぶん思い切って髪を切られていますが、若い女優さんですし、もうちょっと長くてもいいんじゃないかなと思ってしまったのですが(笑)

それは原作者の大島さんも「ここまで短いイメージで書いてなかった」と言ってました(笑)。私は「やっぱりボウズでしょ!」と思っていたのですが、森川さんも全く自然体で「ボウズやってみたい」と気負いがないところがいいなと思いました。「役のためだけに切ろう」という感じだとそこに悲惨さが出てしまうかもしれないけれど、彼女にはそれがない。むしろ普通に似合っている。リハーサルの段階では、彼女の中から知世子がポーンと出てきたという感じでした。

——正岡正宗役の菅田将暉さんは出演作によって全く別人のように見えるのですが、一緒にお仕事をされてどのような印象を持ちましたか?

とても真面目でまっすぐな若者だな、と。はじめは“暗くて自分の中に閉じこもっている”というイメージで役を作って来たのですが、リハーサルで「そうじゃない」と彼自身でもずっとキャラクターを探っていて、知世子との関係の中で改めて作り上げたという感じでした。とにかく真面目で、森川さんと自主練してるんですよ! 時間がない中で撮影の合間に。それを見ながら、陰で感動してました(笑)。たぶん菅田君が誘ったんじゃないかな。もともと演技の技術もあるし、ひとつひとつの役を真剣に生きているのだと思います。

——フェデリコ・フェリーニ監督作品にオマージュを捧げるシーンが数多くありますが、挿入に使われている『道』の映像はスムーズに使えたのでしょうか?

『道』の映像については、『チョコリエッタ』を映画化するためには絶対に外せない要素でした。ところが、著作権的に、映画への2次使用は映像も音楽も一切認められないと。NGが出てしまったんです。だからあの挿入映像は、自分たちで作ったニセモノです。ジェルソミーナ役は名古屋で奇跡的に見つかった当時美大生の道化師に魅入られたおねえさんです。(笑)。
映画の完成後、フェリーニ作品を一括管理している法人の日本支部の方に観ていただいて、結構気に入っていただけたらしく、その年がたまたま『道』製作60周年だったこともあり、その方とプロデューサーとの話合いで、『道』製作60周年記念映画という宣伝をするのもいいじゃないか、ということになったんだそうです。

——『道』の他にもオマージュしている作品がありますね?

chokolietta2『カサノバ』のクジラと海ですね。これも原作に出て来ます。あの海はビニールで作ったのですが、ビニールの海というのはフェリーニ作品の美術で好きなものの一つです。フェリーニは広大なセットにビニールの海を作って、そこに大きな舟を浮かべるのですが、いつ見てもスゴいなと思います。『チョコリエッタ』では、その海を千分の一サイズで、名古屋市内のバス停にて表現してみました(笑)。それでもクジラバスのシーンは一番大掛かりで、人足も必要な上時間的な制限も厳しく、クジラを三重県の作製現場から名古屋のバス停まで移動させることも含めて大変でした。

——撮影はどちらで行われたのでしょうか? 被災地でも行われたのでしょうか?

ほとんどのシーンを愛知県と三重県で撮影し、ワンシーンだけ岐阜県で行いました。人と車がまったくいない場面は、CG処理で消しています。
3.11後の日本という設定ですが、映画の中では被災地=福島という限定はしていません。今の状況が続けば、原発事故で被災する可能性は、日本全国、どこへ行っても等しくあると思うのです。

——東京国際映画祭(TIFF)で上映されていますが、監督にとって印象的な質問やコメントはありましたか? 中国のプレスの女性からは「本国の映画祭に推薦したい」というオファーもありましたが・・・

そうでしたね(笑)。その話は急すぎて結局(出品に)間に合わないということでしたが、香港とスウェーデンの映画祭で上映されることになりました。リトアニアの方が、「とても美しい映画を発見した」と仰ってくれたのが印象的でした。不思議に思ったのが、皆さん、震災や放射能を思わせる描写についてはあまり触れないんです。TIFFのQAでひとりのお客さんが「こういう場所でこういう話をしてはいけないのかもしれませんが」と前置きをした上で、「これは3.11後の放射能のことを表現しているのですか?」と質問をしたんです。なので「はい、そうです」とお答えしたのですが、わざわざそんな前置きをつけてしまうということは、やっぱりこの手の話は、表立って言ってはいけない部類に入るのだなと。そういう世間だということをふまえて、劇中、放射能という言葉は一言も使わずに、映像でそれをイメージさせるように作っています。そのせいか、人によっては全く気づかない方もいるようです。みる人によって、色んな見方がある映画になっていると思います。

——最後に、監督からご覧になる方にメッセージがあればお願いします

観ていただいて、何か感じてくださればいいなと思います。そして感想を聞かせてください。Twitterなどでつぶやいたり、わたしのブログのコメント欄にでも送っていただけたら嬉しいです。

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2015年1月17日より新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー!
※初日は舞台挨拶あり

風間志織監督 プロフィール
1966年、埼玉県出身。桐朋女子高校1年生の時、文化祭のために処女作『お楽しみは悲劇から』(8ミリ)を撮り、映画制作の楽しさに惹かれる。翌年、高校2年生にして撮った『0×0(ゼロカケルコトノゼロ)』が長崎俊一監督の推薦を受け、84年度PFF(ぴあフィルムフェスティバル)に入選。第1回PFFスカラシップを獲得して、16ミリで短編『イみてーしょん、インテリあ。』を監督、トリノ国際映画祭招待作品となる。22才で撮った8ミリ長編作品『メロデ』はレイトショー公開され、多くの観客を集めると同時に高い評価を得た。その後、『冬の河童』(95)がロッテルダム映画祭でタイガー・アワード(新鋭監督賞)を受賞。『火星のカノン』(02)はベルリン国際映画祭、モントリオール国際映画祭などで絶賛された。


『チョコリエッタ』作品データ
監督:風間志織
原作:大島真寿美(「チョコリエッタ」角川文庫)
出演:森川葵、菅田将暉、市川実和子、村上淳、須藤温子、岡山天音、三浦透子、池曵豪、渋川清彦、クノ真季子、梅垣日向子、宮川一郎太、中村敦夫
制作:2014年/日本/159分
(c)寿々福童/アン・エンタテインメント
公式サイト: www.suzufukudo.com/chokolietta

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