トーキョーノーザンライツフェスティバル2015 映画祭ガイド

~北欧文化を堪能する2週間~

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(c)Chisato Tanaka

今年もトーキョーノーザンライツフェスティバル(以下TNLF)の季節がやってくる。1月31日(土)から2月13日(金)まで、渋谷のユーロスペースとUPLINKにてJAPAN PREMERE 9本を含む17作品が上映される。第5回目となる今年は、上映会場も2カ所に別れ、さらには同時に別の場所でもイベントが開催されるなど、さらにスケール・アップしている。TNLFのユニークな特徴は、映画史の発掘、日本ではあまり知られていない監督作品の紹介にとどまらず、その年のトレンドにも目配せしているところである。今年でいえば、北欧ミステリー、バレエ男子など。もちろん、最新の音楽シーンやアートなど映画以外のイベントも盛りだくさんなので、北欧文化を思いっきり堪能することができる、またとないチャンスとなることであろう。



【監督特集】

1 アンドレアス・エーマン監督特集~『シンプル・シモン』の感動はまだまだつづく。

☆ 『シンプル・シモン』(10/スウェーデン)
(吹替え版・音声ガイド・ガイド字幕付きのバリアフリー上映)
☆ 『ビッチハグ』(12/スウェーデン)
☆ 『リメイク』(14/スウェーデン)

シモン2

『シンプル・シモン』

SKIPシティ国際Dシネマ映画祭で審査員特別賞を受賞したのを皮切りに、TNLFでも好評を博し、昨年劇場公開され大ヒット、各地でロングラン上映された『シンプル・シモン』が凱旋上映されると共に、アンドレアス・エーマン監督の新作が、なんと2本も上映される。『ビッチハグ』は、『シンプル・シモン』に続く長編2作目で、NY生活についてのコラムの連載が決まっていた野心家の若い女性が、飛行機に乗り遅れてしまい、実は偶然出逢った少女の家に転がり込んでいるというのに、NYにいるふりをし続けるというストーリー。大自然の中でNYを語るという可笑しさあり、女の子同士の友情もありといった作品。ポップな音楽が散りばめられているところは、アンドレアス・エーマン監督らしい。

『リメイク』は2014年製作の最新作で、『シンプル・シモン』で兄サムを演じたマッティン・ヴァルストレムが、主人公リサの恋人マッティンを演じているのも注目点。本作は、テレビシリーズを多く手掛け、『ビッチハグ』でも協力者として名前を連ねている、ペール・ガヴァティンとの共同監督作品となっている。

2 ヨアキム・トリアー監督特集~ノルウェーで今最も熱い監督の作品がついに上映

☆ 『リプライズ』(06/ノルウェー)
☆ 『オスロ、8月31日』(11/ノルウェー)

オスロ1

『オスロ、8月31日』

1974年デンマーク、コペンハーゲン生まれ、ノルウェーで活動する映画監督であるヨアキム・トリアーは、名前が示すとおり、ラース・フォン・トリアー監督の甥っ子である。2006年に『リプライズ』で長編監督デビューし、いきなりアマンダ賞(ノルウェーのアカデミー賞)最優秀作品賞、最優秀監督賞、最優秀脚本賞などを受賞。2011年、2作目の『オスロ、8月31日』もまた、アマンダ賞最優秀監督賞を受賞、さらに第64回カンヌ国際映画祭のある視点部門でプレミア上映された。ノルウェーで今、最も熱い映画監督である。TNLFで、ようやく彼が本格的に日本で紹介されることを、大変嬉しく思う。『オスロ、8月31日』は、入水自殺しようとする青年の24時間を描いた作品で、ヨアキム・トリアー監督によれば、ルイ・マル監督の『鬼火』にインスパイアされて、映画を作ったのだという。フランスのヌーベルバーグを受け継ぐ監督ということで、彼の作品は、ニュー・ヌーベルバーグなどとも称されている。監督は、何よりも時間や記憶、アイデンティティを、映画の中で表現することを大切にしているといい、両作品ともそうした視点から、鑑賞してみるのもいいだろう。予告編だけ観ても、映像が繊細で美しく、彼の才能の豊かさを窺い知ることができる。



【北欧ミステリー特集】


湿地

『湿地』


☆ 『刑事マルティン・ベック』(76/スウェーデン)
☆ 『湿地』(06/アイスランド)

☆ 『エリカ&パトリック事件簿 説教師』(07/スウェーデン)

『ミレニアム』から始まり、最近では出版界でも北欧ミステリーがひとつのブームになっている。昨年の11月には、北欧の5大使館合同でのミステリーフェスが開かれ、カミラ・レックバリ等が来日、大いに盛り上がったという。
北欧ミステリーの特徴は、細やかな日常描写と、社会への批判精神にあると言われている。1965年に始まる、マイ・シューヴァル&ペール・ヴァールー著「刑事マルティン・ベック」は、北欧ミステリーのそうした特徴を最初に決定づけた、記念碑的なシリーズであり、これまでにも何度となく映画化、ドラマ化されてきている。例えばウォルター・マッソー主演の『マシンガン・パニック』(「笑う警官」)、『太陽の誘い』のロルフ・ラスゴートらが出演した93年製作のドラマシリーズなど。今回は、76年に製作された名作と名高いボー・ヴィーデルベリ監督『刑事マルティン・ベック』 (「唾棄すべき男」)が上映されるのが、大変に嬉しい。
他にも今、日本でも大注目されているアイスランドの作家、アーナルデュル・インドリダソン原作の『湿地』。スウェーデンのアガサ・クリスティーと称される女流作家カミラ・レックバリの「エリカ&パトリック事件簿」シリーズ(現在7作目が刊行)から『エリカ&パトリック事件簿 説教師』が上映され、ミステリー・ファンには見逃せない作品が揃ったと言える。



【ドグマ95】


☆ 『ドグマ・ミーティング』(02/デンマーク)
☆ 『セレブレーション』(98/デンマーク、スウェーデン)

ドグマミーティング

『ドグマミーティング』

TNLFでは、これまでにもドグマ95関連作品が特集として取り上げられてきている。『イディオッツ』『セレブレーション』『しあわせな孤独』などなど。ドグマ95とは、95年にラース・フォン・トリアーとトマス・ヴィンターベアによって考案された映画製作の教義であり、ジャンル映画の製作禁止、アフレコの禁止、ロケーション撮影、手持ちカメラの使用、自然光による撮影など10項目が定められた。『ドグマ・ミーティング』は、2000年に行われた彼ら、トリアー、トマス・ヴィンターベア、クリスチャン・レヴリング監督(『キング・イズ・アライヴ』)、クラウ・ヤーコブセン監督(『ミフネ』)の反省会を写したドキュメンタリーである。ドグマ95とは何だったのか。今これを観ることで、その意義や価値が、改めて明らかになるかもしれない。実際の撮影についての苦労話なども飛び出してくるようなので、トマス・ヴィンターベア監督『セレブレーション』と合わせて観ると、より一層興味深いものとなるに違いない。



【北欧パノラマ】(個性的な映画たち)


☆ 『ボス・オブ・イット・オール』(06/デンマーク他)
ボスオブイットオール
これまでにも、第1回TNLFにて『アンチクライスト』の先行上映、未公開作『ラース・フォン・トリアーの5つの挑戦』の日本プレミア上映を含む、ラース・フォン・トリアー監督特集を組み、その後も初期作『エレメント・オブ・クライム』を上映するなどの実績がある本映画祭。今年上映される、この未公開作は、何とコメディ作品ということである。ラース・フォン・トリアー監督は、確かにジャンルという点では、ミュージカル、ハードボイルド、SF、恋愛ものなど幅広い作品を作ってきている。しかし、コメディというのだけは、どうしても想像できない。一体どういう作品なのか、興味が尽きない。

☆ 『予想外な8月』(13/フィンランド)
アキ・カウリスマキ監督作品の永遠のヒロイン、カティ・オウティネン主演のロマンティック・コメディ。かつて彼女は「あまりにカウリスマキ監督作品の印象が強すぎて、他の監督の作品ではまったく使ってもらえない」と語っていたことがあるだけに、大変貴重な作品である。カウリスマキ監督作品では、表情の少ない彼女だが、他の監督作品ではどのような顔を見せてくれるのか、とても楽しみだ。出演は他に『ハムレット・ゴーズ・ビジネス』のエスコ・サルミネンなど。タル・マケラ監督は、テレビのコメディ・シリーズの演出を務めた後、ドキュメンタリー作品の監督として活躍。本作は、撮影監督であるヨウコ・セッパラと結婚後、共に撮った長編映画2本目の作品である。



【北欧パノラマ】(家族連れで観ても楽しい映画たち)


☆ 『ピンチクリフのクリスマス』(13/ノルウェー)

ピンチあのピンチクリフ村の面々が帰ってくる!1975年にノルウェーで興収歴代ナンバー1の大ヒットを記録した『ピンチクリフ・グランプリ』は、マペット・アニメーションとは思えない、スピード感溢れる映像、発明家のおじいさん、その助手アヒルのソランと、ハリネズミのルドビグたちのなんとも言えないキモ可愛さ、自動車の仕掛けの楽しさなどが魅力的な作品であり、第1回TNLFでも上映されている。『ピンチクリフのクリスマス』は、38年ぶりの続編ということで、当然スタッフも変わっており、キャラクターたちも現代風にソフトなイメージなり、より可愛らしくなっている。旧作の魅力のどのあたりが引き継がれて、また一新されているか、そのあたりにも注目してみたい。

☆ 『劇場版ムーミン谷の彗星 パペット・アニメーション』(10/フィンランド、ポーランド他)
昨年は、トーベ・ヤンソンの生誕100年ということで、本映画祭でも特集が組まれ、その後も雑誌、本の出版やさまざまなイベントが開催された。今年もその熱はまだまだ収まらないようで、フィンランドで製作され、昨年から話題になっていた『劇場版ムーミン 南の海で楽しいバカンス』が2月13日から公開され、また『劇場版 ムーミン谷の彗星 パペット・アニメーション』が2月28日からシネ・リーブル池袋他で公開される。今回はその先行上映となる。本作は、1978年から1982年にかけてポーランドで制作、放送されたものを、2010年に再編集したもので、主題歌をビョークが担当していること、マッツ・ミケルセン、マックス・フォン・シドーなどが声優をつとめたことが、話題となっている。昨年本映画祭で上映された、日本版アニメ『ムーミン谷の彗星』と比較し、お国柄の違いなどを含めて楽しみたい。

☆ 『劇場版 ニルスのふしぎな旅』(83/日本)は、スウェーデンの女性作家セルマ・ラーゲルレーヴが執筆した児童文学。これはTVアニメの劇場版。しかし、この作品は劇場では公開されたことがなく、何とこれが初めての劇場公開となる。ファンにとっては大変貴重。

☆ 『バレエボーイズ』(14/ノルウェー)
昨年あたりからバレエ男子が、急増中。今、バレエボーイズは、男の子向けの専門雑誌「ダンシン」も創刊されるほどのブームになっている。この作品は、ノルウェーでバレエダンサーを目指す3人の少年を追ったドキュメンタリーで、8月にアップリンク配給で、公開も決まっている。誰よりも一足早く観られるチャンスです。



【再発見!北欧古典映画の魅力】

☆ 『ミカエル』(1914/独)
~ベンヤミン・クリステンセンとカール・テオドア・ドライヤー、人生の交差点~

ミカエル今年も、柳下美恵さんのピアノ伴奏に乗せて、サイレント映画の名作が上映される。ただし、ベンヤミン・クリステンセン監督3作品の上映は昨年をもって終了しているので、今年はデンマークの巨匠カール・テオドア・ドライヤー監督がドイツで製作した『ミカエル』が取り上げられている。とはいえ、主演はといえば、やっぱりベンヤミン・クリステンセンということで、そのこだわりの強さには、驚き、呆れて、敬服してしまう。

カール・テオドア・ドライヤー監督は、ジャーナリストとしてスタート、主に演劇評などを執筆していたが、航空機に興味を持ち自ら気球の飛行に積極的に参加するなど、最新の科学にも興味を示していた点で、ベンヤミン・クリステンセンと重なるところがある。また彼の第2作目『妖術』は、ベンヤミン・クリステンセン監督『魔女』に酷似していると言われ、少なくとも彼が、リアリズムと同時に神秘性にも惹かれていた点でも、ベンヤミン・クリステンセンと相通じるものがある。また、デンマーク出身の監督だが、デンマーク映画の衰退と共にドイツへ渡り、『ミカエル』 (14)などを監督し、さらには興行上の失敗からフランスへと渡り『裁かるるジャンヌ』(28)を監督するなど、製作国を転々とせざるを得なかったという点も、ベンヤミン・クリステンセンと同様小国に生まれた監督の悲哀を感じさせる。
ただ、彼と違うのは、決して妥協することをせず、例え10年に1作品しか映画を製作できなかったにせよ、自分を貫き通したところである。それがのちに『奇跡』(55)でのヴェネツィア国際映画祭金獅子賞とゴールデングローブ賞外国映画賞受賞、『ゲアトルーズ』(64)でのヴェネツィア国際映画祭批評家連盟賞受賞へとつながっていく。ハリウッドに渡るも、作品に恵まれず飼い殺しにされ、その後二度と表舞台には立てなかったベンヤミン・クリステンセンとは、そこが違う。共通点の多いふたりの北欧の巨匠は、確かに丁度同じ時期に、ドイツで映画製作をしていた。それはふたりにとって、映画人生の岐路にもあたっている。ふたりのその後の明暗を思う時、彼らの人生が交差した『ミカエル』という作品に、なんとも言えない感慨を感じざるを得ない。本作品自体、当時としては珍しい同性愛を感じさせる映画であり、退廃的な魅力に溢れたものであるのだが、そうしたふたりの背景をも考えると、よりいっそう興味深いものとなってくる。



【北欧からの贈り物2015】


☆ 『土の恵み』(21/ノルウェー)

土の恵み (1)昨年は、ヤン・トロエル監督『ハムスン』が上映された。今年は、その映画の主人公で、ノルウェーのノーベル賞受賞作家クヌート・ハムスン原作の映画化作品『土の恵み』が、in the countryを演奏者に迎え、2月8日、新宿Pit innにて上映される。in the countryは、ジャズトリオの形態を取りながらもジャズでないジャズを目指している、ノルウェーの先鋭的なバンドで、2014年度のノルウェー・グラミー賞(Spellemann賞)に2部門同時ノミネートされている実力派である。映画の監督は、デンマーク出身のグンナル・ソンメルフェルト。彼は、本作以外にもクヌート・ハムスン原作の映画化に積極的に取り組み『ライラ』など、映画史に残る秀作を何本も生み出している。20年代ノルウェー映画界は、デンマークとの間で映画製作の協力体制を作りあげ、本作はそうした中で製作された作品である。



※他にもイベント盛りだくさん…

イースングセット (2)

テリエ・イースングセット

◎ユニクロのCMにて氷の楽器で演奏を披露したテリエ・イースングセット来日!
 自然素材を使った世界的なパーカッション奏者の演奏
◎アイスランド音楽ナビゲーター小倉悠加さんの「アイスランド音楽の現在」シリーズ
 (今回で五回目!アレックス・ソマーズを中心にお話いただく予定)
◎ギャラリーコンシールにおけるアイスランドウィーク
 (会期中、飲食された方には、アイスランドのCDをもれなくプレゼント!!)

また、映画の上映には、様々なゲストの登壇も予定されているとのこと。イベント、スケジュール等の詳細については公式サイトをご覧ください。

「北欧映画の一週間」
トーキョーノーザンライツフェスティバル 2015
会期: 2015年1月31日(土)~2月13日(金) ※音楽イベントは別途開催
会場: ユーロスペース、アップリンク 他
主催: トーキョーノーザンライツフェスティバル実行委員会
公式サイト:
 http://www.tnlf.jp/index.html

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