【FILMeX】数立方メートルの愛(コンペティション)

映画と。ライターによるクロスレビューです。

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【作品解説】

(東京フィルメックス公式サイトより)
アフガン難民たちが法の目をかいくぐりながら働いているテヘラン郊外の小さな工場。若いイラン人労働者のサベルはアフガン人労働者の娘マロナと密かにプラトニックな恋愛関係をはぐくんでいる。周囲の目を避けるため、二人は古びたコンテナの中で逢い、自分たちの未来を語り合う。だが、マロナの父親が違法労働者として摘発されてアフガニスタンに送還されることになり、事態は思わぬ方向に進んでゆく・・・。自身もアフガン難民であるジャムシド・マームディの監督デビュー作。緊張感を保ったドラマ展開と終盤のパワフルな描写はマームディの確実な演出力を証明している。2015年アカデミー賞外国語映画賞のアフガニスタン代表に選ばれた。


【クロスレビュー】

富田優子:★★★★★

若い恋人たちがコンテナで過ごすときの、内部に射し込む光が美しくて強い印象を残す。彼らの微笑ましい様子と、工場内で時々起こるイラン人とアフガン人の諍いが絶妙なバランスで描かれ、複雑で不穏な空気を生み出すことに成功している。タリバンなどの攻撃で故国を追われ、イランで低賃金で働くアフガン人の苦境に同情を禁じ得ないが(アフガン難民のマームディ監督の経験が随所に活かされていることは想像に難くない)、イラン人、アフガン人それぞれの矜持の対立により、恋人たちが追いつめられる終盤の展開は息苦しくも躍動感があり、目が離せない。そして光は彼らの希望や未来のメタファーであったことに暗澹たる思いに打ちのめされるものの、果たしてこれをハッピーエンドととらえるか、そうでないと考えるかの想像の余地を残している。本当に長編映画監督デビュー作なの?と驚嘆せずにいられないハイレベルな作品だ。

藤澤貞彦:★★★★★

コンテナの天井に空いた穴から木漏れ日のように光が差し込む。その光は、密会するイラン人の青年とアフガニスタンからの不法就労者の娘、まるで二人の愛を祝福しているかのようである。一方、アフガニスタンの人たちが、工場への警察のガサ入れから避難する、出口のないトンネルの闇 、息をひそめそこで震える彼らのシルエット。この対比がイランにおけるアフガニスタン人の夢と現実を見事に表している。青年がいくら愛の強さを訴えたところで、彼女の父親には通じない。アフガンでは、結婚は親が決めるのが当たり前、そしてそれを破る行為は、親戚一同の恥という考えがある。そのうえ、娘の父親は誇り高き元軍人。そこに差別される側の意識が加わるから話は食い違うばかり。若者たちの純粋さには希望があるが、それは常に『ロミオとジュリエット』のごとく、大人の名誉のために、社会事情のために、死なねばならないのだろうか。


監督・脚本:ジャムシド・マームディ
出演:サイド・ソヘイリ、ハッシバ・エブラヒミ、ナデル・ファッラー、アリレザ・オスタディ、マスード・ミルタヘリ
英題:A Few Cubic Meters of Love
イラン、アフガニスタン / 2014 / 90分
© TOKYO FILMeX 2014


▼第15回東京フィルメックス▼
期間:2014年11月22日(土)〜11月30日(日)
場所:有楽町朝日ホール・TOHOシネマズ日劇
公式サイト:http://filmex.net/2014/

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