【FILMeX】『フェンヤンの子』:ジャ・ジャンクーQ&A

ジャ・ジャンクー舞台挨拶と作品紹介

ジャ・ジャンクー11月25日、第15回東京フィルメックス・特別招待作品『ジャ・ジャンクー、フェンヤンの子』(ウォルター・サレス監督)が上映された。今回は、まだクロージングタイトルが入っていない未完成版で、賈樟柯(ジャ・ジャンクー、以下カタカナ表記)監督とは縁の深い東京フィルメックスならではの、文字通りサプライズ上映である。上映前、今回映画祭の審査委員長も務める、ジャ・ジャンクーによる舞台挨拶が行われた。

ブラジルの名匠、ウォルター・サレス監督とジャ・ジャンクー監督、あまりに遠く離れた地域で映画を作るこの二人は、一体どこに結びつきがあったのだろうか。まず、誰もが思う疑問に答えるところから舞台挨拶は始まった。

「98年のベルリン国際映画祭でウォルター・サレス監督の『セントラル・ステーション』がコンペ部門で上映され、また私の『一瞬の夢』がフォーラム部門で上映されました。その時に知り合い、お互いに作品をとても気に入りまして、注目しあうようになったのです。2007年には、ブラジルのサンパウロ国際映画祭からお招きを受け、その際ウォルター・サレス監督と対談をしてほしいとのお話がありました。ウォルター・サレス監督は私の作品のことをとてもよくご存知で、ずっと私の作品のことを語ってくれました。そしてその後、私のドキュメンタリーを撮りたい、批評も書きたいと言って下さったのです。私はそれを冗談だろうって思っていたのですが、本当にそれが実現してこの映画になったわけです。ウォルター・サレス監督は南米で映画を作り、私は中国各地を仕事で旅行しているので、そんな私たちが出会って、この作品になるとは思いませんでした」

 『セントラル・ステーション』は、リオデジャネイロの中央駅で、字の書けない人のために手紙を代筆している女性が、交通事故で母親が亡くなり途方に暮れていた少年と、父親探しの旅をする話。駅で、若い人からお年寄りまで色々な人たちが、様々な思いを持って彼女に手紙に託すファーストシーンから、とても印象的な作品である。またこのシーン、実は撮影を始めたら、たくさん人が集まってきて、勝手に語りはじめてしまったので、それをそのまま使ったというエピソードが残っている。その辺りの映画手法、感性が、二人を結びつけたのだろうと想像する。

 全く別の地域で活躍する多忙な二人。スケジュールを合わせるのは、困難だったのではなかろうか。

ジャ・ジャンクー2「パリで3日間、北京で3日間、私の故郷である山西省の汾陽(フェンヤン)で8日間撮ったのですけれども、パリの分は今回の作品ではカットされています。撮影期間は短かったのですけれども、ウォルター・サレス監督は、私の作品に関する場所、私の作品に出ている人たち、スタッフや色々な人たちと会って、取材をされていました」

僅か10分ほどの舞台挨拶。最後にウォルター・サレス監督との出会いの場を作ったベルリン映画祭に感謝の言葉を述べて終了した。この作品が観られたことについて、私たち観客のほうも感謝したい。



▼作品紹介▼
フェンヤンの子1
この作品を観ていると、まさにジャ・ジャンクー監督の作品の原点がどこにあるかが、理解できる。「労働者は自分の通う工場の話をし、刑事は自分の解決した事件の話をする。人それぞれ、その職業によってする話というのがある。私はそうした話に興味をひかれる」

山西省汾陽、彼の父親は教師だった。文化大革命の時、こうした知的階級の人が、どれだけ迫害を受けたかは、さまざまな映画で描かれてきている。ジャ・ジャンクー監督の家も例外ではなく、子供時代には飢え、近所の人の家に食事をご馳走になりに行っていたと言う。歩きまわって、自分が好きなものがあるところでご馳走になったと、楽しい思い出話のように語ってはいるが、子供にとっては、かなり辛いことであったはずである。住んでいた家は、刑務所を改造した建物。それゆえに窓は小さく、壁がとても分厚くなっている。父親の職業柄、本だけはたくさんあり、子供時代には姉と共によく読んでいたという。本来なら良いところの家庭のはずが、歴史に翻弄され、貧しい暮らしを強いられた。そんな体験が、『四川のうた』の閉鎖される工場労働者たち、すなわち歴史に翻弄される人々の話に繋がってくるのだろう。

山西省は遺跡や文化遺産の多いところでも知られているが、汾陽にも大きな城壁がある。ジャ・ジャンクー少年は、そこに昇り「城壁の向こうには、世界がある」と思ったと言う。『罪の手ざわり』に出てくる、あの城壁である。彼が、地元を自分の作品の源としつつ、世界に通じる作品を制作することになるのも、その城壁の存在、外への憧れがあったからなのかもしれない。

このように、ウォルター・サレス監督は、ジャ・ジャンクー監督の故郷を訪ね、彼には少年時代のエピソードを語らせ、また近所の人たちや、彼の母親、姉と彼との会話、映画の出演者たちへのインタビューを重ねることによって、彼の初期の作品『一瞬の夢』から『罪の手ざわり』に至るまで、その作品の原点がどこにあるのかを、明らかにしていく。もう一度、『一瞬の夢』『プラットホーム』から、彼の作品を観なおしたくなってきてしまうし、映画自体がひとつの作家論になっているところが、見事である。ジャ・ジャンクー・ファンならずとも必見の作品だ。



▼作品情報▼
英題/原題:A GUY FROM FENYANG: JIA ZHANGKE
ブラジル / 2014 / 103分
監督:ウォルター・サレス
出演:ジャ・ジャンクー、ワン・ホンウェイ、
チャオ・タオ、ユー・リクウァイ、ハン・サンミン


▼第15回東京フィルメックス▼
期間:2013年11月22日(土)〜11月30日(日)
場所:有楽町朝日ホール・TOHOシネマズ日劇
公式サイト:http://filmex.net/2014/

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