デビルズ・ノット

猟奇殺人事件の裏側で、青年たちは如何に犯人に仕立て上げられたのか

デビルズ・ノット メイン「ウエスト・メンフィス3事件」をご存じだろうか? 本作は、実際に起こったこの未解決事件……アメリカ・アーカンソー州の田舎町での猟奇殺人事件について描いた作品である。3人の少年の遺体は、手足を靴ひもで縛られ、悪魔的な暴行の挙句、鬱蒼とした森の川底に遺棄された。とにかくその残虐な手口に目を覆いたくなるが(調べてみると現実はもっと陰惨なものである)、こんな事件を目の当りにしたら現地住民はパニックかつヒステリックな状態に陥っただろう。警察も何とかして犯人を検挙しなければ収まらなかったと言うことは容易に推察できる。小さな町に殺到するマスコミ、飛び交う憶測。だからこそ、その「熱狂」が彼らの目を閉じさせてしまったのかもしれない。検挙されたのは当時19歳前後の3人の青年。アリバイ、物的証拠、証言が食い違う中、彼らはヘビメタと黒い服装を好み、過激な発言をしていた悪魔崇拝者だ、というような理由で有罪とされてしまう。他にも容疑者となるような人物がいたにもかかわらず、だ。しかも、こんな魔女狩りのような出来事が1993年のアメリカで起こったと言うことに驚きを禁じ得ない。たかだか20年前、遠い過去の話ではない。

本作は、事件に疑念を持った探偵(コリン・ファース)が、犯人とされた青年の弁護士側の調査員と言う立場で関わっていくと言う筋立てである。冤罪という線で描かれているが、彼らの罪を晴らし真犯人を探すと言う目的よりも、善良な人間であったはずの市民が如何に駆り立てられ、悪魔を仕立てていったかという過程に主眼を置いている。冤罪を作り出すシステム。これは、決してこの事件にだけに言えるものではない。

デビルズ・ノット サブ1また、孤軍奮闘する主人公は、それを良く思わない何者かから離婚協議中という自身の弱みを詮索される目に遭うが、こういった点は映画『JFK』を想起させる。世間(当局、マスコミ、一般市民)が「こうあるべき」と妄信的に出した結論に反対していくことの困難さと危険性。会ったこともない第三者から受けるバッシングや嫌がらせ。犯罪に限ったことではない。自分が当事者だったとしたらどうだろう?  おかしいことをおかしいと声を挙げることができるだろうか。探偵の抱える孤独とジレンマ、リース・ウィザースプーン演じる犠牲者の母親の混乱と困惑は、まさに我々が自分のものとして捉えてみる必要があるだろう。

犯罪を犯すのも、誰かを犯人に仕立てるのも、人間の弱さから派生している。残念ながら、Devil’s Knot(悪魔の結び目)は、我々自身が作り出してしまうものなのである。

▼作品情報▼
監督:アトム・エゴヤン
出演:コリン・ファース リース・ウィザースプーン デイン・デハーン ミレイユ・イーノス
2013年/米/114分 PG12
公式HP http://www.devilsknot.jp/
11/14(金)、TOHOシネマズ シャンテ、新宿シネマカリテほかにて全国ロードショー
配給:キノフィルムズ
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